第9話 フルコン空手vs我流格闘術 3
試合の様子を述べる前に、まず二人の体格について述べておきましょう。A君は身長180センチ・体重80キロで、上半身はそれほど大きくありませんが、ガッシリとした下半身をしています。対するO君は、身長172センチ・体重74キロで、ホウレン草を食べた後のポパイのように逞しい上半身をしていますが、下半身はかなり脆弱です。彼のこの下半身の脆弱さが、試合の時に彼を救うことになります。
A君は、フルコン空手の人がよくやるように、両手刀を顔の横に置いた姿勢で腰を左右に回しながら、上段回し蹴りを受ける動作をして体を温めます。O君は、シャドウボクシングのような動きをした後、バク転を二回連続でやります。ドラム缶が跳ねているようなバク転でしたが、ゴツイ体からは想像できないような身の軽さです。二人は、体が暖まったところで、互いに向き合って構えます。
A君の提案で、まず軽く組んでお互いの実力を計ってから、本格的な試合をすることになりました。私は、二人の間に入り、手刀を上から下に下ろし「始め!」と号令を掛けます。
A君とO君は、相手を警戒しながら握手を交わし、ライトスパーリング(軽い組手)を始めます。A君は、フルコンの人がよくやるように両手を開いて頭の両側に掲げた構え、O君は、ボクシングもどきの構えです。
二人は、ジリジリと間合いを詰めて行きます。そして、間合いが限度まで来た時、二人は、同時に蹴りを放ちます。O君は、A君の上段回し蹴りを辛うじて両腕を顔の前に立てて受け止め、A君は、O君の中段への三日月蹴りを見切り、軽く胴を動かして蹴りを躱します。そして、二人は、間合いを切って一旦離れます。
再び、二人は対峙して、間合いを詰め始めます。今度も、二人は同時に蹴りを放ちましたが、O君の蹴りはA君には届かず、A君の右回し蹴りが、O君の左頬に軽くパチッと当たりました。顔に軽く回し蹴りを当てられたO君は、
「寸止めできんと?」
とA君に尋ねました。軽いスパーリングのような事を頭に描いていたO君としては、本気の組手じゃないのに、なぜA君の回し蹴りが当たったのかという素朴な疑問をもったようです。すると、A君は、
「止めたじゃないですか?」
とバカにしたような口調で答えました。「俺が本気で蹴ってれば、あんたは床に倒れてるんだよ。」と言うのが、彼の本音だったと思います。お互いに生きている世界が違うので、二人の会話は、全く噛み合わないようです。
二度のぶつかり合いで、二人は、お互いの力がよく分かったようです。そばで見ていた私にも二人の実力の違いがハッキリ分かりました。立ち技で勝負する限り、O君には全く勝機は無いように思えます。いよいよ、本格的な交流試合の始まりです。
(つづく)
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