第6話 交流 2

 お宮は「交流」するには、ちょっと狭かったので、近くの空き地に移動することにしました。空き地に着くと,

A君が、

 

「初対面でいきなり自由組み手をするのは、危険過ぎるから、お互いに防御側と攻撃側になって交流するというのはどうですか?」

 

と提案し、Yさんが、「それで結構です。」と答えます。



 ここで、二人の体格について述べておきましょう。Yさんは身長170センチ、体重62キロで、決して大柄な方ではありません。対するA君は身長180センチ、体重80キロの堂々たる体躯をしています。

 


 「交流」はまず、Yさん先攻で始まりました。A君は、フルコンタクト空手の人がよくするように両手刀を顔の近くに上げて構えます。Yさんは、自己流にアレンジした奇妙な突きをA君の腹部や胸部に打ち込んでいきます。私には、Yさんの突きは、楊家太極拳の型と野口体操をミックスさせたようなものに見えました。


 発想は悪くないんですが、所詮、我流の突き方です。A君はYさんの突きを一目見て効かないと悟ったらしく、わざとボディでYさんの突きを受けています。恐らく、Yさんの自信を潰す意図があったのでしょう。A君のそんな意図を知ってか知らずか、Yさんは、突きを放ちながら「強い!」と大声で叫びます。結局、Yさんは、決定打を打つことができないまま、Yさん先攻の「交流」が終了します。

 


 次は、A君が攻撃する番です。彼は、フルコン空手の構えのまま、スッと間合いを詰め「セイッ!」と低い声で気合を掛けながら上段前蹴りをYさんの胸に放ちます。蹴りの受け方を知らない体重の軽いYさんは、後ろに押されます。後は、左右から放たれるA君の鉈のように重い回し蹴りを喰らって、左右によろめき続けるだけでした。最後は、A君に掴まれて振り回され、着ていたシャツをビリビリに破かれてスリップダウンします。

 


 自分が勝負に勝ったことを確信したA君は、


「もうこれくらいでいいでしょう。」


と言って拳を収めます。そしてYさんに向かって、


「いいもの持ってますけど、突きが全然なってないですね。よかったら、僕が指導しますよ。」


と言い放ちました。以下、その時、私がこの耳で聞いた二人の会話です。

 


「僕は、拳法をやってますから、遠慮しときます。」


「現実を見てないですね。中国拳法なんて、実戦には全然通用しないんですよ。あなたのやっている拳法で、極真空手のオープントーナメントに出て闘えますか?」


「僕は、師匠から空手映画やフルコン空手の試合を見ることを禁じられていますから、極真の試合がどんなものか分かりません。」


「そういう考え方は、嫌いだな。何でも自分の目で確かめて、その後、批判したければ、批判すべきじゃないですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・」(Yさんは、ブツブツ言葉にならない言葉を呟きます。)

 


 私は、A君の言葉を聞きながら、あまりいい気持ちはしませんでした。こういう状況は、色んな道場で嫌と言うほど経験してきたからです。勝った者が、負けた者を服従させる。理屈抜きの弱肉強食、修羅・畜生の世界です。


 この「交流」の数日後、私は、A君の部屋で彼と二人で話しました。A君が、以前、台湾の中国拳法の団体との交流試合に参加した事があると言ったので、私が、


「台湾の選手たちは、どうでしたか?」


と尋ねると、


「しょうもない!お話にならないくらい弱かったです。中国拳法なんて、大したことないんですよ。この間、あの人とやった時だって、あの人の突きをよけようと思えば、全部よけることが出来たんです。大して効かない突きだったから、わざと体で受けてましたけど。」


と吐き捨てるように言いました。私が思った通り、彼は、わざとYさんの突きを体で受けていたようです。


 後になって知ったことですが、この一年後に老師は、Yさんに正式な受け技と突き技を伝授されたそうです。もしYさんがキチンとした技術を持っている時にA君と交流していれば、結果は、全く逆になっていたでしょう。最初に放った上段前蹴りをYさんに受け落とされて、痛みのあまり脛を両手で抑えながら地面をのたうち回っていたのは、間違いなくA君の方だったからです。老師も、ハッキリそう仰いました。


 二人の交流は、後味の悪いものに終わりました。A君は確かに強いとは思いましたが、私は、この時、彼のことを尊敬する気にはなれませんでした。それ以後、A君と会うことは二度とないだろうと思っていた私でしたが、このおよそ半年後に彼と再会することになります。



★次回は、私の幼馴染O君とフルコン空手家二人との対決について、全7話に分けて、お送りいたします。では、また、次のエピソード「フルコン空手 vs 我流格闘術」でお会いしましょう。

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