第56話  因果応報 1

かつて一緒に瞑想の修行をしていた西原君(仮名)の思い出を書きたいと思います。


 西原君は、小学校4年生から中学2年生まで松涛館系の空手を修行しました。しかし、空手というより喧嘩が得意なタイプで、組み手の際中にボクシングのジャブやプロレスのヘッドロックなどを使うのでしょっちゅう先生に怒られていたそうです。兎も角、こと格闘に関する限り、天才と言っても過言ではない男でした。中学2年までは随分激しい気性だったようで、何度も喧嘩を繰り返し、人にも随分怪我をさせたようです。

 


 しかし、空手をやめる直前の出来事が、彼の人生を変える一つの大きなキッカケになります。以下、彼が私にしてくれた話をそのままここに記載します。

 


 ある日、休み時間になって彼の隣に座っていたクラスメイトがトイレに行きます。彼がふと横を見ると、そのクラスメイトの日記が机の上に置いてあるのが、目に入ります。彼は、あろうことか、その日記を開いて読み始めます。すると、間もなくそのクラスメイトが戻って来て、


「お前、何で人の日記を勝手に読みようとや?」


と言いながら、彼の横面を思い切り殴ります。彼も、


「いきなり殴らんでもよかろうもん」


と言い返しながら、クラスメイトの顔面を正面から殴り返し、さらに足払いをかけて倒します。転倒したクラスメイトは、下から彼の顎を狙って真っ直ぐ蹴ってきます。彼はそれをサッとよけて、逆にクラスメイトの顔面を思いっきり踏みつけます。クラスメイトは脳震盪を起こして気絶します。

 


 その後の事は、皆様ご想像の通りです。西原君は先生から大目玉をくらい、両親は、学校に呼びつけられ、クラスメイトは、その日以来、彼と口を利かなくなります。しかも、事は、これだけでは済みませんでした。その一週間後のことです。自転車で彼が自宅近くを猛スピードで走っている時、自転車の前輪が歩道の縁石にぶつかり、彼は、前方に5メートルほど放り出されます。そして、額を嫌というほど歩道にぶつけます。それから約1ヶ月間、彼の額は、ドッジボールのように巨大に腫れ上がったままだったそうです。

 


 彼は、その時、本能的に、その事故は、自分のやったことが自分に返って来たと直観したと言います。この事件以降、彼は喧嘩をするのをピタッと止めたそうです。狼のような直感力を持つ彼だからこそ、それまでの生き方を続けると危ないと悟ったのかも知れません。(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る