第55話 あとがき
私が自分自身の武道経験を文章にし始めたのは、どちらかと言うと古武道の技と心を多くの人たちに伝えたいという意図からでした。ところが、この文章を何度も推敲しているうちに、武道の世界で演じられた生々しい人間ドラマの方に興味と執筆の重点が移ってしまいました。そちらをメインに描いた方が、面白いという事に気付いたからです。
武道の世界は、他のどんな分野よりも、その人の持つ生の人間性が、露になる世界です。人間の持つ崇高さも、醜さも、ありのままに現れるのが、この世界です。この世界に登場する人物は、皆さん、全く無自覚にご自身の役を演じられているんですね。その事が、どんなに巧妙に創作されたフィクションよりも、ダイナミックで深い世界が現出する最大の要因です。たとえ、最も醜い部分が暴露されてしまった登場人物であっても、その人が存在しないと、ああいう壮大な人間模様が紡ぎ出される事はないんですね。
一人ひとりは、自分の自由意思で動いているつもりでも、大きな目で見れば、壮大な人間ドラマの中の一役者にしか過ぎないんです。たとえ、どんなに強烈なキャラであってもですね。この文章を書いた私自身も、このドラマを構成する一要素でしかありません。
私が武道の道に足を踏み入れてから、早いもので、もう57年の月日が経ちました。その途上で様々な技と心を学んできましたが、今の気持ちを正直に述べさせていただくと、「日暮れて道遠し」の一言に尽きます。武道修行の頂点を富士山の頂上だと例えるなら、私は、やっと今、富士山の裾野に到達したに過ぎません。
70代に手の届く今になって、やっと物事の真理が見えて来始めました。これからが、ホントの武道修行の始まりです。
その過程で、また多くのストーリーが生まれるでしょう。その時は、また別の著作で、皆様にお会いできると思います。
私の人生の縮図とも言えるこの武道物語をここまでお読みいただいた読者の方々に、心より感謝申し上げます。
また別の作品で、皆様にお会いできる日を楽しみに致しております。それまで、何卒、ご自愛下さい。
★次回は、オマケのエピソードを2回に分けてお届けします。では、最後のエピソード「因果応報」でお会いしましょう。
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