第49話 中国拳法家たちとの交流
私が主催している武術サークルの稽古日に、弟子に正しいハンド巻き藁の作り方を伝授していました。
ハンド巻き藁を作り終わり、早速それを使って通背拳的な動きで突きの稽古をしていると、中国人の中年男性が、スマホで我々の稽古を撮影し始めました。毎度の事なので、無視して稽古を続けていると、彼は撮影を止め、我々の六尺棒に触り始めました。私が中国語で、
「武術がお好きなんですか?」
と聞くと、
「あんた、中国語が話せるのか?」
と逆に質問されました。
「ええ、少し話せます。」
「実は、俺も少し武術の心得があるんだよ。」
と彼は言って、いきなり棒を持って梅花棍の套路をやり始めました。彼がやっていたのは、A君が大陸で学んで来た物と同じ型のようです。弟子と私が拍手すると、興に乗った彼は、六尺棒を置いて、独特の構えや手技からの旋風脚と逆旋風脚、更に後掃腿と前掃腿、旋子などを見せてくれました。弟子は、初めて見る本格的な中国拳法の型に随分驚いている様子でした。
「失礼ですが、どこの門派の拳法を修行なさいましたか?」
「俺が修行したのは、秘宗拳と八極拳だよ。」
秘宗拳は、動画で目にしたことがありましたが、目の前で見たのはこれが初めてです。彼は、拳法や棒術以外にも、双刀・拐(トンファー)・三節棍などもやると言ってました。年齢を聞くと、54だとのことでした。この年齢で、これだけ動けるのは大したもんです。それから、彼は、腕時計を指さして、
「もう、集合時間だから、俺は行くよ。」
と言って、最後に右拳を左掌で包んで我々二人に向かってお辞儀したので、私たちも同じ礼式で答えました。二年間この公園で稽古を続けて、初めての出来事です。
彼が去ってから、最近弟子に教え始めた転掌の推手とナイハンチの対練を稽古し、最後に棒の型とトンファーを稽古した。
トンファーの型をNさんに教えていると、今度は初老の中国人男性が、興味深げな面持ちで近づいて来ました。私が、中国語で
「ニーハオ」
とそのご老人に挨拶すると、彼も中国語で話しかけてきました。知らない人にも気さくに話しかけてくるのは、中国人の特徴です。基本的に、中国人は、好奇心が強い民族なんですね。どうやら、彼も、武術をやる人のようです。彼にも、
「どんな拳法を修行なさいましたか?」
と尋ねてみました。
「儂が修行したのは、少林羅漢拳だよ。あんた『少林寺』って映画見たことあるかね?」
「あります。」
「あの映画に出てた于承惠っていう人は、儂の兄弟子なんだよ。」
「そうなんですか?それは凄いですね。」
それから、彼は弟子の棒を持って、棍の動きをやってくれました。彼がやってくれた型は、先ほどの梅花棍とはまた一味違う少林三十六棍の一部でした。
またもや、大拍手です。年齢を聞くと、73とのことで、私たちは、かなり驚きました。どう見ても、50代後半か60代初めくらいにしか見えません。それから、彼は、私たち二人を相手に、いくつかの関節技を見せてくれ、
「武術はケンカとは違う。ケンカに使うのは良くないね。止むを得ず身を守らなくちゃならない時も、関節技で相手を抑えるべきだね。」
と有り難い話を聞かせてくれた。それから、弟子の方を見て、
「君はいくつかね?」
とお尋ねになられた。私が、「彼は、43です。」と中国語で伝えると、
「もういい歳なんだから、ケンカに武術を使っちゃだめだよ。それと、筋力は年齢と共にドンドン落ちて来るから、内功をしっかりやって、気を使って動くように努めるといいね。」
とこれまた有り難いアドヴァイスをしてくれました。これは、私がいつもこの弟子に教えている事でもあったので、弟子も深く納得したという表情をしていました。最後に、私たちは、固い握手を交わしてこのご老人と別れました。
秘宗拳の次は、少林羅漢拳の登場です。ちょっとビックリな稽古日の出来事でした。
★次回は、日本に帰国してから取った弟子のA君と組手をしている最中に起きた相抜けについてお伝えします。では、次のエピソード「続・相抜け」でお会いしましょう。
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