第30話 白鶴拳 1 「和道流柔術拳法」
今日は、私が和道流空手の道場に通っていた頃のお話です。拳法を習っていた老師が中国に帰国されたので、新たな師を求めて和道流の門を叩いた私でしたが、入門して、その技術と思想の深さに随分魅了されたことを今でもよく覚えています。沖縄空手と日本の柔術が融合した和道流は、他の空手流派にはない魅力がありました。特に「三位一体」※(転体・転位・転技)の思想は、その後自分自身の空手を再編成した時にかなり役に立ちました。
※三位一体=体を転換する・位置を転換する・技を転換する。これら三つの技術を一つの動きの中に体現させる和道流柔術拳法独特の思想。
和道流は独特の流派ですが、強いて、似た動きの流派を探せば、ブルース・リーが修行していた詠春拳でしょう。詠春拳との大きな違いは、常に足を動かしているところでしょうか。恐らく、剣の影響でしょう。初代大塚博紀先生は、和道流空手を名乗られる前年に、柳生神影流の道場の半分を借りて仮道場を開かれました。その際、大塚先生は、柳生神影流を学んでおられます。
和道流は素晴らしい流派です。興味をお持ちの方は、you tubeなどで検索なさってみて下さい。お勧めは、イギリスでご指導なさっていた鈴木辰夫先生の動画です。
話を元に戻します。和道流の道場に入門して2ヶ月ほど経った頃のことです。私は、和道流を始めて間もなかったので、暫くは基本の習得に専念するつもりでした。拳法から、柔術の影響を受けた空手に移行する訳ですから、反射神経のズレを少しずつ調整していかなければなりません。そのために、半年か一年は組み手から遠ざかる積もりでした。
ちょうどその頃、道場にSさんという五段の先輩が通って来るようになりました。元々、松濤館流の空手を修行なさっていたそうで小柄ながら、とても攻撃的なタイプの組み手をする人でした。彼の得意技は、横構えからの、膝への関節蹴りでした。
ある日、稽古の途中で先生が自由練習を命じられました。自由練習の時間は、型をやってもいいし、約束組み手や基本の練習をやってもいいので、皆それぞれ自分の不得手な分野を練習していました。私は、鏡の前で先生に習った約束組み手の型を練習していました。和道流はかなり高度な技術なので、中々うまくできません。
自分の工夫だけでは、限界を感じ始めたので、先生の御指導を仰ごうと振り返ったところにS五段が、
「鷹野君、ちょっと組み手をやろう」
と声を掛けて来ました。私は、
「いや、まだ和道流の基本も禄に身についてませんから、組み手は遠慮させて頂きます。」
と断ったんですが、彼は承知しません。
「格闘技なんだから、基本ばっかりやってたって伸びないよ。それに君、白帯なんか締めてるけど、それだけ回し蹴りが蹴れるんだから、素人じゃないだろう?」
とおっしゃって、なんとしても私を組み手に引きずりこみたいようです。
私は
「いや、先生がお許しにならないでしょう。」
と言って、先生に助け舟を出してもらうことを期待しました。先生は常日頃「最近は、すぐ組み手をしたがる傾向が強すぎる」とおっしゃっていたので、きっと止めてくださるものだと思っていたからです。ところが、 先生は、
「ま、一度くらいならいいでしょう。」
とおっしゃいます。私は、内心「先生、止めて下さいよー」(T_T)と泣きたい気持ちになりましたが、もうやるしかないようです。
中国拳法からかなり日本化した空手への移行期に、まともな組み手ができるとは到底思えませんでしたが、組む以上は全力を尽くすつもりでした。(つづく)
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