第4話  空手部 vs 空手サークル

 自宅近くにあった剛柔流の空手教室で痛い目に遭ってウンザリしていた私でしたが、その後もいい空手道場を探し回っていました。これは、その頃、私が見聞きした出来事です。



 当時、私は、福岡市近郊の某大学の体育館に、時々体を動かしに行ってました。その大学に通っている知り合いが、


「体がなまってるんなら、うちの大学で一緒に体を動かさないか?」


と誘ってくれたんですね。


 月二回程度しか通えませんでしたが、そこのウエイトトレーニング室は、かなり広く、バーベル・ダンベルは、勿論の事、ユニバーサルマシーンやマット・ジャンプマットなどが揃っていて、設備も充実していたので、色んなトレーニングが可能でした。勿論、サンドバッグも備えてありました。


 そこに半年ほど通っているうちに、そのトレーニング室で、少林流空手を稽古しているグループの人たちと顔見知りになりました。彼らの型は、とてもキレイで、見ていて惚れ惚れするような流れのいい動きでした。彼らは、いつも10人前後で稽古していましたが、ある日、幼馴染のO君、その大学の友人、そして私の三人でトレーニングに励んでいると、空手着に黒帯を締めた20人ほどの強面の連中が、怖い顔をして、トレーニング室にぞろぞろ入って来ました。


 で、その中の主将らしき男性が、少林流グループのリーダーらしき男性に向って、


「お前ら、なに勝手に、空手なんか教えてるんだ?」


と因縁をつけ始めました。なんかヤバイ雰囲気になり始めたので、我々も、トレーニングの手を休めて、成り行きを見守り始めました。そう文句を言われた少林流空手側の男性は、


「僕たちは、好きな者同士で集まって、空手を練習しているだけです。誰にも迷惑はかけてませんけど、何を仰りたいんですか?」


と言い返しました。すると、空手部の主将は、


「お前らが、ここで勝手に別流派の空手なんか教えてるから、俺らの部員が減ってるんだろうが。現に、うちを辞めた連中が、ここにいるだろうが。」


とかなり興奮して言い始めました。なるほど、そう言う事か!部員が減ると、部の存続にかかわるから、ウエイトトレーニング室で、空手を教えるのを止めろと言う事のようです。 


 これは、ハッキリ言って、彼らのお門違いです。部員たちが辞めたのは、彼らの指導の仕方が悪かっただけに他なりません。空手部よりも、少林流空手サークルの方が魅力的だったから、みんな空手部を辞めて、サークルの方に入って来たんです。


 その事は、その場にいた空手部員以外の全ての人たちが、分かっていた事でした。誰が、どこの部をいつ辞めて、どこの部やサークルにいつ入ろうが、その人の自由です。それを咎め立てする権利は、誰にもありません。勿論、この大学の空手部の連中にも、そんな権利は、ありません。私自身も、そう思いましたが、部外者なので、口をはさむことは出来ません。傍にいたO君は、はやし立てるように、


「もう、決闘たい。決闘。決闘して、決着ばつけやい!」


と煽ってましたが、空手部の連中は、さすがに実力行使には、及びませんでした。 



 少林流空手サークルのリーダーは、穏やかな性格の人でしたが、毅然として、空手部の連中の苦情を撥ね付けていました。あれは、見ていて気持ちがよかったですね。空手部の方のイメージは、正直言って、あまり良くなかったです。数を頼んで、相手を脅迫するまるでヤクザのようなやり口だったからです。


 今、70代近くになって、あの事件を思い出すと、空手部の連中の考え違いが、よく分ります。彼等は、部員が他のサークルに流れて行った時に、他人を責めるのではなく、自分たちの指導や組織運営のあり方を見直すべきだったんです。まだ学生で世間知らずだったので、仕方ないと言えば仕方ないんですが・・・・・・



 次回は、松濤館流系の某道場で起きた抱腹絶倒のお話をお送りします。また、次回のエピソードでお会いしましょう。

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