第5話

 食事と襲撃計画を終えた2人はリアルで飯を食うために、ログアウトしていった。その間に俺は自分の用事を済ませておくとは伝えたが、すぐに合流するだろうから、急ぐことに損はないだろう。


「なぁ、モンスターの素材ってどこで売れるんだ?」


 俺はカウンターにいるフードを被った女に話しかける。


「申し訳ございませんが、ここでは特定のモンスターの素材や情報しか売ることはできませんので、中央にある冒険者ギルドの方にお願いします。」


 女はボソボソとした小さい声で答えて、濁った黒い目で俺を見つめる。気持ち悪さと不気味さを感じつつも、この場所のアングラ感がそれに拍車をかけているのだと思いつつ、目の前の女を見つめ返す。


「それと、その銃の弾がご入用でしたら、この区域にガンスミスをやっている方のお店がこちらにございますので。それと、冒険者ギルドの方で役に立つ道具を買うこともできますので。」


 そう言うと、シワだらけの紙に簡単な地図を描いたものを渡してくる。何も伝えていないというのに、求めていた場所の情報を渡してきたことに、少し恐怖を覚えつつ、感謝の言葉を述べ、この場所を後にする。


「にしても、見れば見るほど、この区域だけ寂れているな。まぁ、貧困層の人や犯罪者、裏社会な奴らには便利な所だな。」


 薄汚い路地に寝転ぶ浮浪者たちの値踏みするような目をうけつつ、無事に中央の区域に辿り着くことができた。


「ここの空気は心なしか澄んでるきがするな。さて、確かギルドの場所は…あっちか。」


 弛緩した空気につられて、最低限の警戒しかせずギルドへと向かって歩を進めていく。何人かとすれ違うもスリをするような様子も、すれ違いざまに刃物で刺そうとしてくる奴もいなく、無事に中に入る。


 中は冒険者ギルドという名にもかかわらず、野蛮で汚い内装とは正反対の質素で綺麗に手入れされている内装、カウンターには顔は少し厳つい老人一歩手前の男が座って、こちらを見ている。中にいる冒険者たちは一瞥して、ほとんどが興味をなくしたのか、すぐに会話や酒に興じる。


「こいつを売りたいんだが、ここで会っているか?」


 カウンターの前にコヨーテの皮と爪、牙を複数取り出し、カウンターに置きながら目の前の男に尋ねる。


「見ない顔だな。ギルドカードはあるのか?ないなら登録してやる。」

 

「忘れていたよ。ほらよ。」


「……確認した。中央からきたのか。最近、王国から流れてくる奴が多いがお前もか?」


「ん?あ、あぁ。そんなところだ。それで、幾らになるんだ?」


「まあ、そうだな。皮の状態もバラバラ、爪や牙は問題ねぇ。数もあるから、1500ナディルってところか。」


 駄目だ。物価の基準がほとんど知らないから、普通なのか、低いのか分からない。さっき食べた飯が大体4回ほど食えるということを考えると妥当なのだろうか。メタ的に考えると大きな組織のはずだから、足元を見て低く提示しているわけではないだろう。


「売るよ。また世話になるかもしれない。」


「そうかい。金がいりようなら、クエストボードでも見な」


 金を受け取り、絡まれることもなく、外に出ると夕日が町並みを照らしている。ゲーム内時間と現実の時間を見比べ、メッセージ機能で二人にいつ頃になるのか連絡を入れる。


「さて、あとはガンスミスのところか。金は確保できたし、行かないとな。それに、待たせるようなことになったら……想像しただけで嫌だな。」


 遅れた借りを返すために、ジェイからはギャンブル資金をせびられ、グレゴからは戦う機会とレアアイテムをせびられる想像をしてしまう。


「おっと、変なこと考えてたらスラムの入り口に着いちまったな。教えて貰った場所はどこだったかな。」


 渡された紙をズボンのポケットから取り出し、道順を確認しながら、薄汚い路地を足早に進んでいく。


 奥に進むたびに、空気が重く、場所と時間の影響か徐々に暗くなってくるが、不思議なことに入り口に多くいた、目をギラつかせ、盗みを働こうとする奴や絶望した目で地面を見つめる奴、地べたで寝込んでるような奴がいない。それどころか、人の気配が全くといっていいほどしない。


 落ち着いて観察したせいか、異様な雰囲気に呑まれてしまったのか、金縛りにあったかの様に足を止め、自然と手が腰にある銃に触れる。触れた瞬間、不思議と体が軽くなる。


「ちっ、俺がビビったってことかよ。……はぁ、気をしっかり保てよ俺。こんな事あいつらに知られたら笑いもん間違いなしだ。」


 自分の心を鼓舞して、紙を見てみると、どうやら、ガンスミスの店まであと少しで辿り着くことできるみたいだ。

 








  




 

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