第3話

 道中、コヨーテ達の襲撃を幾度か退けつつ、コンパスを頼りに、北へと進み続けた結果、町へと辿り着くことには成功した。

 

「よ、ようやく着いた。弾も体力も尽き掛けだ。早く補充しないとな。」


 今ある素材も気にはなるが、フレンドへの連絡を取るため、町の名前を探ろうと辺りを観察する。

 右側にNPCであろう人が3人ほどで話しているのが2組、左側の奥には何かの販売所の扉に近い壁にもたれ掛かっているのが1人、あとはプレイヤーであろう4人1組が通路の左寄りで会話をしている。

 会話内容を盗み聞くと報酬の分配で揉めている感じだが、あの様子だと穏便にすみそうだ。


「ずいぶんと待たしてくれたじゃねぇか。」


 そう後ろから声をかけられ、慌てて振り向くと同時に銃を握ろうとし、話しかけてきた大男を観察する。


「悪いことは言わん。この町中でも一応PvPは可能だが、それを抜いた瞬間に賞金首になるぞ。それに外見は伝えてあっただろう?」


 目の前には、背中に両手剣を背負い、悪人面の背が高い男が茶色い瓶の中身を呷っている。


「グレゴワールか。後ろから急に声をかける方が悪いだろ。確かに伝えてもらってた通りの格好だな。悪かったよ。ジェイはどこにいるんだ?」


「いつも通りグレゴでいい。あいつは酒場でギャンブルでもしてるから、後回しでいいだろ。それより先にいろいろと登録しにいくぞ。」


 暫くグレゴについて歩くと、街の中央を通り過ぎ、町の中でも薄暗く、外に近い区域に到達し、周囲の店より少し大きい程度の建物の中へと入ろうとする。


「おい、本当にここであってるのか!?中央のとかにそれらしい建物とかあったぞ!」


「あっちよりもここの方が色々と便利なんだよ。とりあえず、ここでクラスシステムやら売買の為に必要な登録やら済ませておけ。」


 その言葉を信じ、建物に入っていく。

 中は少し薄暗く、床はお世辞にも綺麗とは言えないが、しっかりと作られているようで、嫌な音をたてることなく、歩くことができる。


 前方にはカウンターがあり、フードを深く被っている人物が俺に値踏みをするような視線を向けている。右側には簡易的なベンチとテーブルがおいてあるが、人はいない。左側の壁には張り紙が複数枚貼られており、手配書やなんらかの依頼の紙のようだが、その紙も経年劣化で黄ばみをおびている。


 立ち去りたい気持ちを抑えつつ、カウンターに向けて歩を進めていく。


「知り合いの紹介でここに来たんだ。登録をお願いしてもいいか?」


「そうですか。紹介者はどなたですか?」


 返ってきた声が高いことに驚く。カウンターの人物はどうやら女性のようだ。俺は後ろを振り向き、グレゴを指差す。


「後ろにいるグレゴワールの紹介だ。問題はないだろう」


「問題はありません。これが当ギルドの登録カードです。」


 そう言って、渡された2枚のカードを確認する。

 白い方には竜と剣のマークが描かれており、冒険者ギルドと書かれている。詳細を確認してみると、階級と貢献度は最低、討伐実績も空白となっており、その他プロフィールも書かれている。

 黒い方にはマークも文字も描かれておらず、詳細を見ると犯罪者ギルドと書かれており、中身は一部違うが冒険者ギルドの詳細と似ている。


「は?グレゴ、お前これ……」


 冗談や嘘だと思いつつ、俺はグレゴワールに問いかけようとする。


「安心しろ。黒い方は非合法だ!俺とジェイが見つけた。便利だから感謝しろよ。」


「普通に冒険するんじゃないのか。俺はそう思ってたんだが!」


「バカを言うな。普通に冒険はするぞ。それはそれとしてってやつだ。普通にvPやっても実りがないからな。その点これが有ればプレイヤーからも一部アイテムがドロップしたりするんだ。せっかくなんだから自由に楽しんでいこうぜ。」


「巻き込んでじゃねぇーーよ!!てか、その口ぶりからして、誰か殺ったのかよ!それに名前知られたら晒しとかにあって、リスキルや通報されたりするだろ。」


「なんだそんなことか。名前はカードの機能をオンにすれば偽名になる。装備や顔は変わらんから気をつけろよ。」


 最悪だ。人手がいるからやって欲しいと誘われて、こんな事になるなんて、想像もつかなかった。


「あぁ、そうだった。ステータスの調整とクラスの方は白いほうで設定できるから、やっておくといいぞ。」


 俺は今の問題を考えないように、クラス設定をしていく。初期クラスは適性と行動を参照に解放されるため、少ないといえどもいくつかある候補の中から選んだのは、ガンシューターを選ぶ。


「グレゴ、適正の中に灰色の文字で選択できないやつとかなかったか?」


「あれか。あれは解放条件満たしてないからだな。誰かに師事するとか、特定の行動、特定のモンスター討伐とかだな。」

 

「そうか。そろそろジェイと合流するか。」


「それならもう会えるぞ。大好きなギャンブルが終わったみたいでな。ここで待つことを伝えてある。」


そう言ってグレゴは簡素なベンチに座って、酒と肉を注文し始めたのを見て、俺も反対側のベンチに座って、酒と肉を注文する。

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