第26話

昔から、勉強していい職業に就くんだよ、と散々親から言われてきた。

兄は弁護士、姉はエステティシャンで自分の店を経営している。だが、本当はもっと上を目指していたようだ。

獣医になりたかったきっかけは、家で犬を飼っていたから。その子は、もういないけど、私にとって大切な家族であって癒しであった。医者には興味がなかったが、動物の医者というのには魅力を感じた。だから目指したのだが、父はいい仕事だ。ペットを飼う人も増えているから需要がある。給料もいいはずだ、兄さんと姉さんよりもずっと難しい仕事だ、まりこならできる、そう言った。

そうじゃない、と言いたかった。でも言えない。

ただただ、私は期待されていたから。


期待通りになったけれど、そうなってしまったらもう何もない。私が論文をたとえ頑張ったとしても、そうか、とそれだけ。


母は、お金持ちの人と結婚しなさい、いい職業の人と結婚しなさいだの、若干行き遅れている兄や姉のようにならないよう話せばその話題だ。世間体を気にする母だ。私が私立の有名の進学校に通っているときは、うちの子すごいでしょ?常にトップなの、と自分のことのように近所の人に話していた。


「おい、どうした?」


急に不安になった。亮伍は、有名私立校に通っていないし、大学の成績だって悪い。それに、今だって獣医ではなくて、動物看護師である。


「どうしよう、絶対反対される」


「絶対ってなんだよ。ひどくね?」


「ど、どうしたらいいんだろう」


「は?なんだよ急に」


亮伍はいつの間にか見終わったDVDを片づけていた。こうやって普通に2人で過ごしてたけど、結婚反対されたら、もう二度と会うなって言われるに違いない。結婚しないで黙って過ごしてるのもいいかもしれないけど、それじゃ私がきっと嫌になると思う。


「どうしよう」


そう思ったら泣けてきた。せっかく私のこと気にかけてくれてんのに、私のせいでダメになっちゃうよ。うつむきながら考えてもなにも出てこない。ただ、涙が出た。

そういえば私、仕事から帰ってそのままの格好だった。涙がこぼれて、スカートに落ちる。これ高かったのに、シミになったらやだな。


「なんだよ、いきなりめそめそして」


亮伍はそっけない。私が真剣に考えてんのにこの言いぐさ。ひどい。

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