第5話ムーンバックセンス
戻ると、進む。
道筋を決める、地図の上に、羅針盤をかざした旅人は、狂った世界を見つめる。
野心を抱いたその腕に、猫を抱いて、訪れる窮迫の時に、鋭い感覚で、五感を消す。
気配を捨てたごみ箱の上で、それをあさる野良猫に、去るように首を振る。
言うことを訊かない猫は、素知らぬ顔で、鳴く。
ムーンバックセンスとは、回転しながら、地球の自転を止めるように、意識をはぐらかす集中の先のあるイマージュのことである。
広大無辺の地図の上で、世界に指を置くと、コーヒーがかかった切れ端に、そっと視線を預けて、また目線を戻したら、月が映り込んだ部屋の中で、嗜好品の価値を推し量る貿易商人のように、微睡にある警笛、目覚めて、押して、船を駆る。
そんな夢想が、私の部屋のコーヒーの湯気の先に映ると、遠のいていく現実に、声を発する刹那の小言を寝言と勘違いする。
ムーンバックセンスは、幻想の海に帰るまで、終わらない旅を捧げた冒険者の寄せては返す波打ち際で、囁いている愛のセンス。
一連の思考の流れに、同期する感傷が、感覚野を研ぎ澄まして、ドレスを脱ぐように歌う歌姫を観劇する晩に戻るというなら、帰り道の馬車の中で、月を見上げた時に、不意に涙を流す者に、酔いしれるイマージュが、コーヒーをこぼした地図の上で、反射する想像のスクリームである。
進んで、また戻る。
そういうセンスの流動に、立ち返る時、自身を放擲する破壊衝動が、月の妖面さと重なって、仮面を脱ぐように、夜更け、肉体を脱ぐ動物がいる。
帰結に入ると、回帰衝動は、いつでも、間隙をぬった観劇の合間に、ふと、隠れた月を見つけたいというおさまらないバックノイズのように、迫ってくるとある克明な想像野を、引きちぎるように、使用すれば、馬車の中で、抱きしめ合う恋人の衝動と、地図を広げる冒険者と、孤独に月を見上げる夢想家の交じり合う声に純粋にまじらないセンスこそ、ムーンバックセンスである。
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