第四章
気が付いたら高校二年の後半になっていた。夏休みがもうすぐ終わり、まだプールの授業がある事を憎みながら学校が始まる。
そんな頃に、宮森さんから連絡が届いた。
「大賞、取れちゃった。」
直後に来たリンクを確認すると、新人大賞、作品名:宝石、作者:宮森愛湖。
その後にあらすじがあったり、いろんな人の感想が乗ってたりしたが、そんなものを読む気にはなれなかった。
「おめでとう。長い間頑張ったかいがあったね。」
隣、というか正面で書いているのを見ていたため、内容がどうあれ頑張っていた知り合いが報われたことが、自分の事のようにしっかりとうれしかった。
宮森さんからは「私が持ってるから」と本を譲られそうになったが、これは出版社や関係者へのお布施も含めて買うのが礼儀というものだろう。
「ねぇ、君のアイデア力っていうの?司書さんがすごいって褒めてたからさ、今度は、君の見えてる世界を書いてみたいんだ。お願い、できないかな?」
僕は、それを断った。
その一週間後に、少女の訃報が届いた。
大賞受賞から単行本販売は爆速で、一週間後には発売が開始された。
購入して、自分で読んで、大賞なのにも納得した。
それだけでなく、「道徳の授業でつかってもいいだろうか。」という誘いまで来ていたらしい。それにも納得がいく作品だった。
その作品は、文章のみだというのに、年齢規制でも入るんじゃないかと思うほどにはリアルだった。作者の経験した誹りを、読み手が今まさに受けていると勘違いするほどには、「酷い」と表現できる内容だった。
感想や審査の結果などは、作者の読み手へ理解させる能力の高さ。について褒めているものが多いが、僕からしたら、この作品はただの告発状だ。
なにせ、前半の全ての内容を僕は少女から直接聞いていたのだ。
その作品には、男の子が出ていた。ちょうど僕みたいな、ただ聞いているだけで、特別手を差し伸べない冷徹な少年だ。
だというのに、作品の主人公はその少年に恋心と言ってもいい感情を抱いていたと思う。作中で、彼に対してだけ明るい感情を示していたから。
クラスメイトにも、家族にも、恵まれなかった少女は、たった一つの図書室で、春を知ったのだと、そう書いてあった。
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