第三章
司書さんから「小説を書いてみない?」というお誘いが始まった。
宮森さんは、かなり乗り気で「やってみようかな。」と、小さな声で決意を固めている。その反面、僕はそこまで乗り気になれなかった。
「僕は、やめておきます。長い文章を書くのは億劫で・・・。」
「あら、それなら仕方ないわね。愛湖ちゃん、分からないことがあったら何でも教えてあげるから、頑張って書いてみましょうね。」
元気な子供と一緒に、おままごとでもするかのようなテンションだ。
いや、おばあちゃんにとってはおままごとと執筆は何ら変わらないのかもしれない。
その日以降、宮森さんはスマホで執筆を始めた。
司書さんも最初こそ驚いていたが、「便利になったわねぇ。これなら書き損じても、後から修正に気付いてもすぐにやり直せるのね、素敵だわぁ。」と、受け入れていた。
宮森さんの様子も少しづつではあったが、かなり変わった気がする。
といっても、僕に話しかけてくる頻度が徐々にが増えただけだ。正確には書いている内容を客観的にどう見えているか?という質問だった。たまに、とてつもなく申し訳なさそうに買い物に付き合わされたけれど、購入したのは付箋や筆記用具、あとグミとかお菓子。デートとも何とも言えないただの付き添いだった。
そんな関係が次の夏まで続いた。
宮森さんから、語られるいじめの内容と種類、その量を聞くたびに、少しづつ疑問が浮かんできた。
【なぜこの人は元気なのだろうか。なぜ壊れないのだろうか。】と。
素晴らしいことなんだろうとは思う。人に虐げられても、心折れずに学校に通い続け、負けない精神の強さは、きっと世界的に見ても類を見ない強さなはずだし、一般人からすれば異常ですらある。なにより、僕がそう思った。
この宮森愛湖という少女は、心の強さが異常なのだろう、と。
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