暑い

月這山中

 

 暑い。


 暑すぎる。


 この世に30℃以下の気温はなくなってしまったのだろうか。


 暑い。


 早く室内に入りたい。


 足を動かす。


 しかしそれは叶わない。ここはいけずの街、京都の洛中。


 一見さんお断りの店とぶぶ漬け必至の民家が立ち並ぶこの街で、俺を助けてくれる場所はない。


 自販機で冷たい飲料を買って保冷剤代わりにしようにも、小銭はない。


 景観条例によって存在感を消されたコンビニは見つけることができない。


 金がない。


 暑い。


 腹も空いている。


 足を動かす。


 烏丸御池まで来た。


 人々は無言で信号待ちをしている。


 誰も他人を気に掛ける余裕はない。皆、早く室内へ避難したがっている。


 俺にこの街での居場所はない。


 ただ降り注ぐ直射日光と、盆地の反射熱に焼かれて死ぬだけ。


 俺は死ぬのか。


 このまま。


 こんなクソみたいな街で。


 俺は。


 ふと、地味な看板が目に入った。


 俺はこの看板を知っている。


 景観条例によって弱化されているが俺はこの看板を。


 俺はこの店を知っている。





 券売機の前でしばらく立ちすくんでいた。


 やよい軒の冷房は涼しすぎる。


 それがいい。

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暑い 月這山中 @mooncreeper

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