第6話 都合のいい

 失脚するというのは、アメリカの、直接的な敵である、

「社会主義国」

 であるソ連の専売特許ではないか。

「粛清」

 と呼ばれるものによって、世間は、

「国家には逆らえない」

 と考える。

 これは、社会主義のような、

「政治だけでなく、すべての自由を、国家が把握する」

 ということで、

「民主主義の限界」

 と言われた、

「貧富の格差」

 であったり、

「汚職の蔓延」

 などという問題が大きくなってくることで、

「自由競争をやめて、すべてを国家が掌握する」

 ということで、

「国民すべてが平等である」

 というのが、社会主義である。

 そのためには、国家元首が、

「すべての権力を握る」

 という、絶対的な独裁政治が必要とされることで、対抗勢力は、あってはならないということで、

「それらの排除」

 ということになり、

「徹底的な粛清が行われる」

 というのが、当時の社会主義の正体だったといえるだろう。

「民主主義陣営」

 は、そんな社会主義を徹底的に敵対した。

 政治家とすれば、そんな社会体制であれば、

「いつ、自分たちが消されるか分からない」

 という恐怖に駆られるからで、そんな状態で、

「政治などできるはずがない」

 ということになるのであった。

 ただ、民主主義国家というのも、

「理想の国家」

 というわけではない。

 そもそも、その限界が露呈したことで、社会主義国家というものが生まれたわけで、それこそ、

「理想の人間を作ろうとして、怪物を作ってしまった」

 というフランケンシュタインのようではないか。

「民主主義の限界を感じ、理想の国家体制としての、社会主義を作ろうとして、実際にできた国家は、粛清の嵐という怪物ではないか」

 というのが、

「民主主義陣営」

 の理屈であろう。

 そんな国家を、民主主義陣営が、認めるわけにはいかない。

 下手をすれば、

「自分たちの政治体制が否定され、政治などできるわけがなくなり、国家が大混乱に陥ることで、ひいては、世界が、大混乱になる」

 ということである。

 つまりは、

「社会主義国家というものが、いかにひどい国家かということを、国民に思い知らせる必要がある」

 ということで利用されたのが、

「ベルリンの壁」

 という問題であり、

「核開発競争」

 だったといってもいいだろう。

 もちろん、社会主義陣営でも、

「民主主義の限界を解き、社会主義がどれほどいいものかというのを大いに宣伝していたことだろう」

 それが、戦後の、

「プロパガンダ」

 というものによる、国民の洗脳だったということだろう。

 この時代を、

「東西冷戦」

 というが、何といっても、お互いの超大国での戦争ということになると、

「規格の抑止力」

 というものがなくなることで、

「世界の滅亡」

 というものが現実化してくる。

 それが、実際に現実味を帯びたのが、

「キューバ危機」

 だったのだ。

 これは、

「キューバ革命」

 によって、社会主義化したキューバという国を、アメリカが潰しにかかっているということがキューバ政府に分かると、何とか防衛策をということで、ソ連に近づいた。

 そこで取られた策が、

「キューバへの核ミサイルの配備」

 だったのだ。

 ソ連としては、

「アメリカの喉元に、核爆弾を突きつけることで、核の抑止力を優位にするつもりだったのだが、アメリカとしても、そこまでされて、引き下がるわけにはいかない」

 当然、

「ミサイル撤去」

 に動くわけだが、そこで問題になったのが、

「偶発的な事故」

 だった。

 その時初めて、

「核の抑止力」

 というものが、

「どれほど薄っぺらいものなのか?」

 ということを、目の当たりにした。

 ということであった。

 だから、アメリカもソ連も、ミサイル撤去までの数日間を恐怖とともに、過ごした。

「いや、世界中の人たちが、全面核戦争という恐怖を初めて体験した」

 といってもいい。

 核戦争というのは、

「いつどこで起こるとも限らない」

 ということが、明るみになった瞬間だったのだ。

 それから、核軍縮には向かうことになるのだろうが、冷戦というのはまだまだ続き、特に、社会主義の台頭をさらに、恐怖に感じたアメリカは、ベトナム戦争に、直接的にかかわっていき、実際には、

「代理戦争」

 と言われるものであったが、兵をベトナムに送り、完全に、介入していくことになるのだった。

 だが、

「東西冷戦」

 と呼ばれるものは、意外な形で収束していった。

 ソ連というものが崩壊したのである。

 それによって、社会主義体制の国が世界からほとんどなくなり、それと同時に、

「東西冷戦」

 もなくなった。

 だからといって、世界から戦争がなくなったわけではない。

「ゲリラ戦」

 と呼ばれるもので、反政府組織が、政府に立ち向かうという、一種の内乱のようなものが、世界各国で起こってくるのであった。

 要するに、

「一つが解決しても、どんどん、災いが湧いてくる」

 ということで、それこそ、

「開けてはいけない、パンドラの匣」

 を、開けてしまったということになるのだろう。

 それを考えると、

 今の社会がいかに、

「愚かなことなのか?」

 ということになるだろう。

 しかし、実際に、

「先を読んだ政治」

 というのが、今までの歴史を考えて、できるだろうか、

 かの世界大戦もそうである。

「一次大戦を終えて、ドイツに、過剰な賠償を課したことで引き起こされた、第二次大戦の悲劇」

 といってもいい。

 もちろん、

「それだけが原因だ」

 というのは、あまりにもひどい言い分であるが、少なくとも、それがなければ、

「ナチスの台頭もなければ、ドイツの再軍備」

 もなかっただろう。

 世界恐慌というのも、拍車をかけたわけだが、それも、

「民主主義陣営」

 の起こしたことではないだろうか?

 それを思うと、

「先を読んでの対策」

 というものが、どれほど難しいことなのか?

 といえるだろう。

 特に、

「核の抑止力」

 というものに頼ってしまい、まったく身動きが取れない状態にしてしまったのは、自分たちで、それこそ、

「因果応報」

 ということでも、

「自業自得」

 ということでもあるというものだ。

 そんな社会において、

「都合のいい時代」

 という考え方があり得るのだろうか?

 実際の社会において、

「都合のいい」

 というと、あまり言葉の受け止め方からすると、

「いいイメージではない」

 といえるだろう。

 特に、この言葉は、

「一定の人たちだけにいわれることで、大衆に対して。都合のいいという言葉をあまり使うということはしない」

 といってもいいだろう。

 社会的に、特に、民主主義というものの限界として、

「多数決」

 というものが、

「民主主義の根幹」

 ということになるのだが、

「じゃあ、少数派意見はどうなるのか?」

 ということである。

「少数派意見が、絶対に悪く、多数派が絶対にいい」

 とは限らない。

 人類は、それで今までにどれだけの、

「罪」

 を犯してきたというのか。

「それでも地球は回っている」

 と言った、ガリレオガリレイであるが、それこそ、彼の意見は少数派であった。

 ほとんどまわりが、押さえつけたことであったが、結果、ガリレオが正しかったもだ。

 さらに、

「これは、何が正しいのかは分からないが、これも賛否両論あることとして、中世に行われた。魔女狩りというものである」

 魔女と疑われれば、結局は火あぶりにされて、処刑されるということであるが、誰がそれを正しいとしたのかである。

 しかし、これも、

「治安を維持する」

 ということでは必要だったのであろう。

 これは、江戸幕府においての政策としての、

「踏み絵」

 というものにも言えることであろう。

 キリストの絵を描いた板の上に足を乗せることができるかどうかということで、

「隠れキリシタンをあぶりだす」

 ということであった。

 しかし、政府としては、仕方のないやり方であった。

 実際に宣教師というのが、当時は、植民地政策の先遣隊だったわけなので、結果的には、

「踏み絵」

 というやり方は間違っていなかった・

 ということになるだろう。

 だからといって、やり方として、

「正しかった」

 といえるだろうか?

 それを考えると、

「国家としての立場と、庶民の立場に、隔たりがかなりあり、お互いに歩み寄ることのできない平行線を描いていた」

 といってもいいだろう。

 そういう意味で、

「都合のいい」

 という考えは、政府の側にあり、結局、庶民は、

「泣き寝入り」

 という構図が出来上がってしまったのであろう。


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