第三話 業務再始動

「それでセンパイはどんな荒事引き受けてきたんですか?」


あの後、気まずくなった客は、社長にエスコートされてそのまま帰り、無事解放された後輩がまたダルがらみしてきている。


「あ~あ、さっきの客が長居してたら後輩の相手しなくて済んだのにな。」


「心の声、漏れてますよ。ってか、隠す気ないでしょ!」


「そりゃあ、俺ほど清廉潔白な男。隠す必要ねえだろ。」


「センパイはどっちかって言うと、相手を顔面蒼白にする男でしょ。」


「なら 、お前は特別に真っ赤にしてやろうか。」


上手いこと言わんでええねん。それにこの顔。イケメンのドヤ顔ってさ殴っても良いと思うんだよ。


「冗談ですよ、冗談。怖いなあ。」


さっさと会話を切り上げたいし、守秘義務を破らない範囲内で教えてやるか。


「ここをシマにしてる時雨ときさめ組があっただろ?」


「あ~、あの目かっぴらいた時の迫力が半端ねえじっちゃんが頭をやってるとこだでしょ。」


「そう、あの組の人たちは義理人情に厚くて、法を破ることがあっても、いい奴らだろ。」


「ま、サツからしたら他の暴力団と大差ないんですけどね。」


「そこで俺に来た依頼ってのが、時雨の爺さんから『シマの中に海外の外道が入り込んでいてな。規模がデカいんで俺らがやろうとすると抗争になっちまう。どうにか潰してきてくれねえか』ってさ。」


まぁ、慣れっこだが油断は出来ねえんだよな。だから、万全の状態でない俺でどこまでできるかわかんねえんだよな。


「センパイ、オレもついていきましょうか?」


「いや。防弾チョッキは一人分しか無くてな。お前連れてくぐらいなら、俺一人で言った方がいい。それに、俺が一人で殲滅しないといけないわけじゃない。証拠集めて、商品潰して、証拠を集めて警察に任せりゃいい。」


後輩はへっぽこだからな。潜入には向かねえんだ。


「そうすか、、、。でも、オレにできることがあったら言ってくださいね。」


「留守番でもしとけ。」


ぶっきらぼうに会話を終わらせ、俺は準備に取り掛かった。







今回の任務に必要なのは


「縄とフックと」


そこまで言って、背後からものが飛んでくる気配。パシッ。


「あと、通信機。」


「ったく、物は投げちゃいけませんって親に言われなかったのか。」


「相変わらずね。あんた背中に目ん玉でもついてんじゃないの。」


「ったく、言葉のキャッチボールぐらいしようぜ。」


「そっちだってまともに会話するきないくせに。」


「そんなの君が可愛くて照れちゃうからさ。」


「ダウト。幼馴染なめるな。」


ぎゅっ。服のこすれる音。柔らかさはない。相変わらずだな。鼓動はそこまで早くない。そりゃそうか。新鮮味もないからな。


「特に用がないなら放してくれないか。」


締め付けが強くなる。背中が湿る。


「・・・死にそうだっていうのに、、、だ、黙ってて。このバカ。」


「・・・、それはごめん。」


ははは、俺は愚か者だ。天涯孤独のありきたりな悲劇のヒロインぶってさ。


「仕事さっさと終わらせてくるから、放してくれないか。」


俺を締め付ける手が緩み、するすると衣服が擦れる。振り向くと案の定、目頭は赤く、、、最低だ、俺って。


「・・・ん。」


懐かしいな。


「ん。」


突き出された薬指に俺のを絡ませる。


「絶対に帰ってきてよ。サポートはするから。」


「俺が任務失敗したことってあったか。」


「うう~ん、あったかも。」


「ねえよ。」


やっと安心してくれたのかな。まだ、表情は硬いけど笑ってくれた。


「ふふっ。そっか。そうだよね。それじゃぁ、行っておいで。お土産はいつもの店のバウムクーヘンで良いよ。」


やっぱ変わんねえわコイツは。


「へいへい、プレーンな。」

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キズナ 久繰 廻 @kulurukuru

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