五頁ー悪夢ー



「眼帯を着けさせて貰ってもいいだろうか」


ふと、宵月はエデンにそう訊ねた。嗚呼と肯定すると、宵月の細い腕が頭の後ろに周り、布を取り払う。次に眼帯を着ける仕草に、エデンは何故か胸が高鳴った。無駄に緊張してしまう。きゅ、と眼帯の紐が後ろで縛られたのを確認すると、宵月はエデンに向かって微笑んだ。


「似合っている」

「……ありがとう、宵月」


エデンも宵月に微笑んでみせた。上手く笑えただろうか、そう思案していると、ふと宵月が視線を下に落とした。宵月の瞳が凍りつき、口を開く。


「エデン、その肩の傷痕は……?」


エデンは首を傾げた。首元の空いた服を自分で確かめて、硬直する。そこには確かに傷痕があった。深く切られた痕のような、まるで、切断されたかのような深い傷。そこではとエデンは宵月を押しのけ、ベッドから立ち上がった。シャワー室に駆け込み、服を脱ぐ。その身体には、幾つもの傷跡が残されていた。ハーロックに付けられたものだと判断するのに、秒もかからなかった。頭が真っ白になり、エデンはその場に蹲る。ハーロックを思い出すのが心底恐ろしかった。でも、それを吐き出しても苦しくなるだけだと、頭の中で警告していた。



犯してきながら四肢を切断するハーロック。エデンの右目を抉り取り、それを咀嚼するハーロック。狂った思想で狂ったように笑う、あの青い、


「っ!!!」


早朝。エデンは勢いよくベッドから起き上がった。酷い悪夢を見た。呼吸が浅く早くなり、過呼吸を起こしている。すると、背中を心地好い体温が触れた。視線を移すと、そこには心配そうに覗き込む宵月の姿があった。


「大丈夫。深呼吸」


そう言って宵月はエデンの背中を撫でる。エデンは呼吸を落ち着かせながら、宵月にしがみついた。エデンが落ち着くまで、宵月はずっと背中を摩ってくれていた。


助けて。


そう言えたらよかったのに、とエデンは心の中で独り言ちる。しかし、宵月と"彼岸"の姿が脳裏にちらついて、何も言えなかった。



「おーい、エデン!」


夕方頃になると、護、ブラウン、ハーロックと共に、村の住人達が悪夢の国に来た。何事もないかのように、爽やかに笑いながら此方に手を振るハーロックにぞっとしながら、エデンはポーカーフェイスを務めた。いつもの面子を見て、エデンははてと首を傾げる。


「護、フレッドは?」

「それが昨日から姿が見えないんだよなあ。まさか怖くて隠れた……とか?」


冗談のようにいって笑う三人に、エデンも疑問と、嫌な予感が拭えない。すると、そこにアザゼルが歩んできた。


「私の国の誤解は解けたかな」

「アザゼル王……!」


アザゼルの元に人が集まっていく。信頼されているんだな、とエデンは考えた。信頼され、国は発展し、素敵な国だ。そんな国を、エデンも造りたいとずっとずっと考え、実行してきた。


素敵な国だね、楽園は。


アザゼルの科白が反芻されていく。エデンは覚悟を決め、ひとつ大きく息を吐く。隣にいた宵月に向き直ると、両手をとり視線を合わせて言った。


「宵月は村の住人の確認と点呼を頼む」

「判った……が、エデンは何処へ……?」

「大丈夫。覚悟は出来ている」


エデンはにこりと笑うと宵月の両手を離した。そして城に向かって走り出す。はと宵月はエデンの後を追おうと手を伸ばすが、空を掴んだまま立ち尽くしていた。







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