四頁ー悪夢ー



「城の中は好きに見回っていいよ」


アザゼル王はそうエデン達に言った。エデンと宵月は、個人行動をする事にする。エデンは聞きたい事があるのだ、アザゼルに。


「国の発展の事について話を伺っても?」


エデンがそう言うと、アザゼルはきょと、と目を瞬きした。その後少し嬉しそうにすると、「此方においで」とアザゼルの個室に案内された。アザゼルは席に座るように促してから、使用人に紅茶を頼む。


「……で、どうして興味があるんだい? 後、敬語は要らないよ」

「判った。……俺は、俺も国王なんだ。だから知りたい」

「成程?」


アザゼルは、興味深そうに目を細めた。どのような国か、何が名物か、色んな質問をされ、エデンは真面目に答えていく。楽しかった。アザゼルは時折、自分の国なら、と説明を加えてくれる。アザゼルの言葉はとても参考になった。久しぶりにこんな話をしたものだから、エデンもはしゃいでいた。


「いい国だね、楽園は。いつか同盟を結ぼう。いい返事を待ってるよ」


これから執務があるからと、話し合いはお開きになった。エデンはどこか満たされた様子で、足取り軽く自室に向かう。すると、そこには人影があった。

車椅子に乗った女性が、窓を眺めている。白い短髪に、月の光のような黄金の瞳。着やすそうなロングワンピースを着ている、中性的な美人だ。


「私の母上、シノン母上だよ」


突然耳元で声がした。驚いて振り向くと、そこには当たり前のようにアザゼルがいる。アザゼルは悲しそうに眉を下げ、エデンに説明した。


「先代……父上と母上は事故にあってね。母上は両足を大怪我して歩けなくなってしまった。父上は亡くなり、私が王をしているのさ」

「……」


エデンはじっとアザゼルを見つめている。アザゼルは困ったように笑うと、自らの母、シノンを見つめた。


「母上は心を閉ざして何も語らない。ピースの事が判ればと思ったが……」


ふと、エデンはシノンのワンピースの胸元に、紫色のブローチが付いているのを見た。どこか胸が高鳴る。まさか、あれが。

その時、ハーロックの仄暗い笑みがフラッシュバックする。エデンはさっと顔を青ざめると、その場を勢いで走り去った。アザゼルの呼ぶ声が聞こえるが、構っていられない。


ハーロックの狂気じみた笑い声が、脳で反芻される。忘れろ。忘れろと、エデンは思考を振り払いながら、半ばパニックになりながら走った。



割り当てられた自室に着いた。ノックも何もせず扉を開けると、「おかえり」と声を掛けられた。ベッドに腰掛けた宵月だった。


「……嗚呼。ただいま、宵月」

「悪夢の国について、誤解だと言う内容の手紙をフレッド達に手紙を書いて投函した所だ」

「……してくれていたのか? ありがとう」


エデンは申し訳なさそうに息を吐く。構わないと宵月は首を横に振り、ベッドから立ち上がるとエデンに手を差し伸べた。


「疲れただろう、休もう」

「……」


そろり、とエデンは宵月の手を掴む。そっとベッドまで案内されて、そこに座った。すると、宵月は懐から何か、紙袋を取り出した。


「……受け取ってくれないか」

「……?」


なんだろう、とエデンは首を傾げて、紙袋を受け取る。封を開けると、白い彼岸花が刺繍された眼帯が入っていた。


「……"彼岸"」


エデンがぼそりと呟く。心配そうにエデンを見つめ、宵月は言った。


「そのままでは、色々と不便だろう? 気に入らなかっただろうか」


エデンは頭を振り、ぎゅっと眼帯を握りしめ、目元に当てた。噛み締めるように、エデンは言う。


「そんな事ない。ありがとう、ありがとう、宵月……」


色んな感情でごちゃ混ぜになりながら、エデンは呟き続けた。






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