六章

一頁ー悪夢ー



エデンは泉の畔で目を覚ました。はっと辺りを見回す。ハーロックの姿はなかった。その事に安堵していると、遠くに誰かが倒れているのを見つける。


「宵月……?」


駆け寄ると、そこには宵月が倒れていた。抱き起こすと、まるで死人のように青ざめた宵月の顔がそこにある。目を閉じていると、本当に死んでいるかのようだ。何があった、と考える前に、宵月が薄ら目を開いた。


「宵月、大丈夫か?」

「……エデン」


弱々しい声で、宵月は呟く。そっと身体を起こしてやると、貧血なのか、くらくらとした動きで辺りを見回す。把握が済むと、再びエデンを見遣る。そこで、宵月は目を見開いた。


「エデン、右目が……」

「っ!!」


触れられそうになり、思わず手を払ってしまう。はっとしてエデンは口を開いた。


「す、すまない……右目がどうした?」


右目はフェニの契約で視力が失われている。それがばれたのだろうかと思案していると、動きを止めていた宵月が、悲しそうに眉を下げた。


「右目が……なくなっている」


今度はエデンが目を見開く番だった。とっさに泉の傍まで寄ると、水面を除き込む。水面に映ったエデンの顔、右目は、ハーロックに抉られた"あの時"のままの状態で傷付いていた。


「エデン……?」


そう問いかけられてはっとし、エデンは頭を振った。自分の服の布を千切り、右目を隠すために頭の後ろで縛る。


「……なんでもない。取り敢えず、人を探そう。ピースの情報を集めなければ」

「嗚呼……」


何か物言いたげな宵月だったが、何も言わなかった。心の中で謝罪しつつ、エデンは宵月と共に人を探す事にした。



近くには村があった。そこで最初にあったのは、茶髪を肩まで伸ばしたフレッド、黒髪短髪の護、天然パーマのブラウンだった。


「おーい、エデン。今まで何処行ってたんだよ」


フレッドがエデンと宵月に手を振って言う。エデンは三人をまじまじと見つめていた。それに気付いた護が訊ねる。


「どうした、エデン?」

「ハーロックはいないのか……?」


震える声でエデンが問う。隣にいる宵月の雰囲気が変わった気がしたが、構っていられない。


「ハーロック? 彼奴は今ひとりでお使い中」

「そうか……なあ皆、ハーロックには気を付けてくれ。彼奴は、危険だ」

「危険? あの大人しい、お前の親友のハーロックが?」


ぽかんとした様子で護とブラウンは首を傾げる。フレッドが何か考え、黙り込んでいたが、エデンを見てはっとした。


「エデン! その目!」

「嗚呼、これは」

「もしかしてお前、ひとりで"悪夢の国"に行ったんじゃないだろうな?」

「……悪夢の国?」


エデンは不思議そうに訊ねる。すると護がやれやれと首を振った。


「今俺等、悪夢の国の調査に行く準備中じゃん」


成程、とエデンは長考した。ここの世界での"エデン"は、悪夢の国という所へ向かう予定らしい。でも色々と、情報が足りない。


「情報を改めて整理したい。また聞き込みに行かないか?」

「ん? まあ構わないよ」


フレッドが気さくに言う。まずはこの村の住人に話を聞きに回ろうと、五人は行動に移した。






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