四頁ー愛ー
宵月は草原で目を覚ました。
両目共見える視界。風の吹く音が聞こえる。
「な……」
驚きの声を上げる。声が出る。その事にも驚いていると、ふらりとひとりの男が宵月の前に現れた。
「声はどうした」
クラウスだった。宵月は困惑しながらも、彼に返答する。
「判らない。でもエデンがあの"魔法使い"と契約したとしか考えられない」
はと、エデンを探さねばと脳が警告する。走り去ろうとした時、
「何故」
とクラウスは問うた。宵月は、その問に返す言葉をひとつしか知らない。
「愛しているから」
宵月は駆けた。エデンを探す為に。
*
探しても、エデン所か、人ひとり見つけられずにいた。そんな中だった。彼が現れたのは。血塗れの姿の青髪にバンダナの男だった。確か、エデンが親友と言っていた人だった。名前は、
「ハーロック……?」
訝しみながら、宵月は声を掛けた。ハーロックは返事の代わりに、その場に似つかわしくない笑みで返す。宵月は問うた。
「その血はなんだ……? あと、エデンを知らないか?」
「……嗚呼、あれ?」
ハーロックは笑みを貼り付けたまま、洞窟の中を指した。ぞっと怖気が走る。宵月は急いで洞窟の中まで走った。そこで、宵月は膝から崩れ落ちる。エデンはいた。血塗れの死体となって。身体のあちこちに裂傷や刺し傷があり、首は有り得ない方向に曲がっている。生気を宿していない緑の瞳。血の海と化した洞窟内。宵月は、言い表せられない絶望を突き付けられたようだった。エデンの死体。血塗れの、返り血だらけのハーロック。
そこで、くすくすと笑い声が聞こえた。現れたのはグリだった。彼は嘲笑うように宵月達を見下ろしながら言う。
「残念でしたね、宵月様。でも、此処にはピースは無かったようです」
失礼致しましたと言葉だけの謝罪をし、グリは宵月を値踏みする。
「さて、今度は何処を頂きましょう……」
「……待て」
やっと声を絞り出して、宵月はグリの科白を止めた。興味深そうにグリは宵月を見つめている。宵月は、無表情のままグリを見上げた。
「提案がある。……俺が、自分の代償を考える」
「ほう……」
目を細めてグリは笑う。必死に頭を回しながら、宵月は考えられるだけ考えていた。光をなくした瞳でエデンは宵月を見ている。それが悲しくて悲しくて、仕方がなかった。
*
ハーロックの姿は消えていた。洞窟を出た宵月とグリは、平和そうな風に吹かれながら対峙していた。
「……宵月様。それで代償、とは?」
「……血液でどうだ」
宵月の考え出した代償はこれだった。もう、視覚も聴覚も失う訳にはいかない。だから、と彼が考え抜いた答えは"血液"だった。興味深そうにグリは目を細める。宵月は続けた。
「俺の血液なら、普通の人間の致死量を超えて取っても、俺は死なないし、お前も満足するんじゃないか」
「……そうですね」
グリは考えた素振りを見せた後、そっと宵月に近付いた。怪訝にしていると、ぐいと首元の服を引っ張られる。露わになった首元に、グリは噛み付いた。
「……っ」
こくり、こくりとグリの喉が上下する。どのくらいそうしていただろう。意識がぼやけ、視界が白くなり掛けた時、グリは吸血行為を辞めた。崩れ落ちる宵月に対し、グリは淡々と言う。
「いいでしょう。これからの代償は宵月様の"血液"、賛成致します」
では、とグリがブーツで地を叩く。魔法陣が展開されると共に、宵月は貧血で意識を失った。
第四章.完.
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