三頁ー愛ー


気付いたら、手を頭の上で拘束されていた。

此処は何処だろうか。仄暗い洞窟のような場所に見える。手の拘束を解こうにも、鎖がけたましい音を立てるだけでびくともしなかった。


「やあ、起きたんだね、エデン」


声がした。びくりと身構える。そこには、ハーロックがいた。彼の周りには、不気味な拷問道具が並べてある。ハーロックは暗い笑みを浮かべながら、エデンの元へと擦り寄った。


「エデンが悪いんだよ。俺の言う事を聞かないから」

「……ハーロック、お前、記憶が……?」

「うん、全部覚えてる。エデンの上に鉄骨を落としたのも、毒針を仕込んだ手で肩に触れたのも。研究者を洗脳してエデンを殺させたのも、全部俺」


ぞっと背筋が凍った気がした。エデンを殺していたのが、全てハーロックだった、とは。認めたくない。理解したくないと思っていると、太腿に激痛が走った。思わず声を上げる。ハーロックが、太腿にナイフを突き立てていた。


「俺のエデン、可愛い声……。もっと聞かせて?」

「……ぁ、!っ、なん、で」

「何で? 愛してるからだよ」


致命傷を避けてハーロックはナイフをエデンの身体に突き立てる。エデンは悲痛な叫びを上げながら、どうして、とその事ばかり考えていた。


「愛しているよ、俺のエデン」


そう言って、ハーロックはエデンの服に手をかけた。ナイフで布を切り裂き、胸板が露わになる。その胸にナイフを滑らせる。滲んだ血液を、ハーロックは口付けてから舐め取った。形容の出来ない不快感を感じても、ハーロックは仄暗い笑みを浮かべて辞めなかった。

掌を刺し、爪を剥がし、首元を噛む。その度に声を上げ、エデンの白い肌は、見る見るうちに赤く染っていく。


「可愛いね、可愛いよ、エデン」


ハーロックは興奮したように、頬を蒸気させて微笑む。いつから、彼は"こう"なってしまったのだろう。ハーロックは親友だ、かけがえのない、親友の筈だった。

なんで。どうして。エデンは痛みを感じながら、その事ばかり考えていた。そっと、ハーロックの手がエデンの首を絞める。呼吸が出来ない苦しさ。頭の中を真っ白にしても、疑問は尽きなかった。


「愛しているよ、エデン」


ハーロックは壊れたように、ただただそう言って微笑んでいた。







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