二頁ー愛ー
深い青色の髪を三つ編みにして流し、魔法使いのようなロープを着た人物。彼は、
「……フェニ、か?」
「覚えて頂けて光栄です、王よ」
エデンはフェニをきっと睨み付け、宵月を庇うように抱きしめた。
「宵月に何かしたのは、お前か」
「いいえ。王に選ばれし者は、グリと契約を交わし、代償を払う事で世界をトリップしているのです。最初は味覚。そして片方の視力。次に声帯。今回は聴力ですね」
エデンは絶句した。知らなかった、では済まされない。自分は宵月になんて事をしてきたのだろう。そう考えると、罪悪感が込み上げてきた。エデンはフェニに向かって言った。
「……頼む。宵月を元に戻してくれ」
「不可能です。願いは叶えられ、代償を払ったのだから。それとも王よ、私と契約致しますか?」
突然の提案だった。エデンは長考する。ふと、セレーネの顔が浮かんだ。「半分こしよ」そう言って分けた杏仁豆腐。
「……判った。なら、俺の味覚、視力、声帯、聴力を宵月に半分分け与えてくれ」
「ふむ……少々無理がありますが、構わないでしょう」
フェニはくすくすと笑った。エデンを品定めするように見て、考える素振りを見せる。
「代償は……そうですね、腎臓に致しましょう。人間は腎臓がひとつ無くても生きられるそうではないですか」
「判った。頼む」
エデンは即答した。それを面白いとばかりに笑うフェニはそっとエデンに近付き、軽く口付けた。目をぱちくりとするエデンをお構い無しに、フェニは笑っていう。
「契約の証です」
そう言った後、フェニはブーツで地を叩いた。魔法陣が展開される。
「次目覚ました時には、願いを叶えて起きましょう。それまで暫し、お眠り下さい」
エデンは宵月を抱き抱えたまま目を閉じた。視界は白く包まれ、何も見えなくなっていった。
*
再び目を覚ましたら、草原で横になっていた。隣で宵月が眠っている。
「宵月」
エデンは声を掛けた、宵月を起こそうとした時だった。
何者かに布で口元を覆われた、何が起きたか考える隙もなく、再びエデンは気を失った。
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