四章

一頁ー愛ー



宵月が世界をトリップした後、グリの元にふたつの人影が現れた。彼岸とハーロックだった。彼岸は不機嫌といった様子で、グリに詰め寄る。


「全く……私の宵月の声を奪わないでくれるかな? 可愛い喘ぎ声が聞こえやしない」

「……そういう契約ですので。貴方の為でもあるんですよ?」


それとも、何かご不満が?


冷めた目でグリは笑う。彼岸は舌打ちすると、グリに向かって嘲笑った。


「契約しないと力を発揮出来ない"約立たず"が、私に口答え?」

「……」


グリの瞳が昏くなる。彼が手をかざすと、手に魔法が集まる。それを彼岸に放ったのだ。大きな爆発音。思わず目を閉じた彼岸が目を開けると、目の前には血塗れのハーロックが居た。


「……なんで」

「俺の、"神様"だから……大丈夫、俺、には……"彼"が、いるから……」


ぐったりと脱力するハーロック。グリの姿は消えていた。彼岸はハーロックを抱えたまま、沈黙していた。



「彼奴の所為で」


白い空間。何やら彼岸は機嫌が悪かった。どうしたのだろうか、と宵月はぼんやり考える。その次には鳩尾を殴られていた。彼岸はぶつぶつ何かを呟きながら、暴力を続ける。頭を壁に打ち付けられ、蹴られ、首を締められる。

彼岸の宵月への暴力は、彼の気が済むまで終わらなかった。



穏やかな風が吹いた。エデンは意識と浮上させる。草原に横になって眠っていたようだった。世界トリップをした。ハーロックに殺されて。

ふと視線を横にやる。そこには、宵月が眠っていた。よかった。直ぐに合流出来た。エデンは上半身を起こすと、宵月を揺すり起こした。


「……」

「宵月」


無言で目を覚ます宵月。そんな彼に、思わず抱き着いていた。宵月の手が背中に回る。エデンは泣くのをグッと堪えて、宵月に言った。


「宵月、会えてよかった。それと、青い髪をした男がいたら逃げてくれ。彼奴は、ハーロックは何かを知っている」


身体を離し、宵月を見つめる。彼はぽかんとしたまま、頷きもしない。エデンは訝しげに宵月に話しかける。


「宵月? どうしたんだ……?」

「……」


すると、宵月は悲しそうに微笑んだ。またこの表情だ。と思っていると、宵月に片手を取られる。その掌に、何か文字を書いているようだった。


「き」「こ」「え」「な」「い」


理解するのに数秒を掛けた。理解した瞬間、エデンの中の何かが音を立てて切れた。エデンは宵月を掻き抱くと、感情のまま絶叫した。


「誰だ! 宵月にこんな仕打ちをしているのは! 見てるんだろう! 姿を現せ!!!」


エデンが叫んでも、宵月は動じない。草原も平和そうに風を吹かしている。エデンがもう一度声を張り上げようとした時だった。


「お困りのようですね、王よ」


そう言って深い青色の髪を三つ編みにした魔法使いが、突如として現れた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る