六頁ー傭兵ー



「宵月さーん、腕! 腕!」

「ちょっと待てえ、生えてきてねえ? 生えてきてねえ?」

「お前は何者だ、宵月さん」


セレーネ達が宵月の元へ駆け寄り、騒いでいるのが聞こえる。そんな彼等の元へ向かおうとした時、がらんのに呼び止められた。


「して、お主は何処の世界から来た?」

「……判るのか?」

「昔、似たような奴に会った事があっての。もう何処にもおらんのだが」


退屈そうにがらんのは言う。そんな彼を見つめて、エデンは問うた。


「がらんの、貴方は一体何者なんだ?」

「なんでもないわ。名前の通り、ただの"がらんどう"よ」

「お弟子さんが居るだろう?」

「ただの弟子に過ぎん。わしは何も持っとらん」


何も持ってない方が、戦いやすいからの。


最後にがらんのはそう付け足した。エデンは暫く考えて、がらんのに言う。


「……俺は、大切なものがあればある程、強くなれると思う」

「……」

「がらんの。俺にとって貴方も、大切な人だ」


ありがとう。


エデンが礼を言うと、がらんのは頭をがしがしと掻いた。照れているのだろうか、と考えていると、がらんのは此方を見た。そして、目を見開く。


「……がらんの?」


突然、がらんのが倒れた。エデンは直ぐさま駆け寄り、脈や呼吸を確認する。止まっている。がらんのが、死んだ。

何故、どうして。どうやって。死ぬのは自分の筈ではないのか。脳をフル回転させていると、背後から足音が聞こえた。


「……エデン」


ハーロックだった。彼はエデンの元にゆっくりと歩み寄っている。エデンは顔を上げると、ハーロックに叫んだ。


「大変だハーロック、がらんのが」


左胸に激痛が走った。何かと思えば、エデンの左胸にナイフがくい込んでいる。そのナイフを持っているのは、紛れもなくハーロックだった。


「……な、んで」

「それは"次"に教えてあげるよ、俺のエデン」


にっこりとハーロックは微笑む。次、とは。

そこで、エデンの意識は途切れた。



宵月がエデンの元に来た時には、既にエデンは死亡していた。その隣に、がらんのも倒れている。何が起きた。そう考える前に、"彼奴"が現れる。


「今回もお疲れ様でございました」

「……」

「喋れなくても結構です。私は読心術が使えますので」


がらんのは何故死んだ。

そう宵月は考えたが。グリは「判りかねます」の一言で片付ける。


「さあ、次は何を頂きましょう……?」


楽しそうにグリは笑う。彼を睨みつけながら、宵月はエデンの事だけを思った。







第三章.完.

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