五頁ー傭兵ー



魔獣の断末魔が劈く。急所を矢で的確に撃ち抜いた烏丸は、全員に向かって叫んだ。


「僕とセレーネで活路を開く、走れ皆!」


その声を合図にエデンもすらりと剣を抜いて走り出した。その横で、セレーネが大きく跳躍し、無数のナイフを一体の魔獣に投げつけ、串刺しにする。


「エデン兄さん、無理しないで!」


再びナイフを取り出しながら、セレーネが言う。にこりと笑ったエデンは、魔獣に向き直り、隙をついて首を鮮やかに刎ねた。もう一体の懐に滑り込み、斬りあげて二体目の首を落とす。


ひゅうと、焔丸は口笛を吹いた。そのまま彼は自身と鎖で繋がれた槍で大きく飛び跳ねると、一体の魔獣に正拳突きをお見舞いする。その魔獣の肉が大きく抉れ、絶命する。


烏丸が矢で急所を撃ち抜き、セレーネは無数のナイフで魔獣を串刺しにし、焔丸は正拳突きを食らわす。洗練された動きだ、とエデンは感心した。


「たっ、助けてくれ!」


もう一体の首を刎ねた時だった。遠くでひとりの傭兵と思われる男が、尻もちを付いて魔獣に襲われかけている。助けに行こうとした時だった。その傭兵の前に宵月が立ちはだかった。宵月は片腕を食いちぎられながら、その魔獣を投げ飛ばす。


「ひっ」


ちぎれた腕の付け根から流血しながら、宵月はその傭兵に微笑んだ。それでも動けないでいる傭兵と宵月の前に、新たな魔獣が襲い来る。間に合ってくれ、とエデンは願いながら、彼等の元に駆けた。その時、魔獣の上空を飛来し、頭を踏み潰した人影が現れた。


「今日は眠くて敵わん。早急に終わらすかのお」


がらんのだった。彼はやる気のない顔で欠伸をしながら、エデンと宵月に目配せする。


「エデン、わしに続け。宵月はそやつを回収して待機」


エデンと宵月は頷き、直ぐさま行動に移した。宵月は片腕で傭兵を軽々と持ち上げると後退し、エデンはがらんのを追いながら魔獣を斬り伏せていく。がらんのは、素手で魔獣を引き裂き、踏み潰し、心臓を片手で掴み取り握り潰していった。どういった修行を積めばそんな事が出来るのか、エデンは半ば感心しながら、がらんのの後を追って行く。


魔獣を倒していく中、一際大きな蛇の姿をした魔獣が現れた。この魔獣は人を襲う事なく、ただ傍観している様に見える。


「あれが親玉じゃの」


がらんのが言うので、エデンは頷いた。その大蛇を観察していると、額に黒い宝石のようなものが埋め込まれている。まさか、あれは。


「がらんの」

「む?」

「あの蛇の額の宝石。あれを回収したい」

「……ふむ」


がらんのは暫し考えてから、一歩下がった。エデンを見据えて言う。


「ならお主が倒してみい」

「……嗚呼、判った」


エデンは剣を構える。すると大蛇は大きく咆哮し、此方に襲いかかって来た。エデンは最初の攻撃を躱すと、剣を振り下ろす。それを大蛇は器用に交わし、大きな口で此方に噛もうとする。それをすれすれで躱しながら、エデンは大蛇の首元目掛けて剣を振り上げた。剣は大蛇の肉に食い込み、そして両断される。


大きな首が転がって、大蛇は動かなくなった。すると、他の魔獣も散れ散れに逃げていく。ふうと一息吐いて、エデンは大蛇の首の額の宝石に触れた。すると、それは霧散しネックレスへと吸収される。やはりピースだったか、とエデンは呟いた。


「実に見事じゃの、エデン」


がらんのが言う。セレーネは手を振り、焔丸と烏丸はこちらを見て微笑んでいる。これで、この世界のピースの回収は完了したのだった。







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