二頁ー傭兵ー



「エデン兄さん、半分こしよ!」


皆が食事を済ませた頃だった。唯一食後のデザートを頼んでいたセレーネは、エデンにそう笑いかけた。セレーネは自分の頼んだ杏仁豆腐を、不器用ながらに半分に分け、片方を小皿に移してエデンに渡す。


「記憶が戻るよう頑張ってねって言うプレゼント!」

「……」


半分に分けられた杏仁豆腐を見てから、セレーネの屈託の無い瞳を見る、エデンは本当に有難くて、少し申し訳なくて、それでも微笑んだ。


「セレーネ、ありがとう」

「うん!」


にこにことセレーネは笑い、夢中に杏仁豆腐を食べ始める。エデンもスプーンで掬いながら、味を噛み締めて食べ尽くした。



エデンの為に街の案内をしてやれ。

そうがらんのは言い残し、セレーネと共に何処かへ行ってしまった。残されたのはエデンと、紫髪赤眼の兄弟だ。


「なんか自己紹介すんのも変だけどよお、おれは焔丸ほむらまる。んで此方は弟」

烏丸からすまると申す。もう忘れるな、エデンさん」


タレ目の兄、ジト目の弟。焔丸と烏丸が丁寧に自己紹介する。ふたりは獲物を所持していた。焔丸は鎖の付いた槍、烏丸は矢筒に弓だ。

観察していると、気付いたのか焔丸が説明した。


「嗚呼、此処は傭兵業が盛んでなあ。戦闘技が長けてる人が自然と集まってくる街なんだあ」

「成程」

「兄者も僕も、がらんの師匠の修行の元傭兵となった。セレーネはまだヒヨっ子だがな。師匠には感謝している」


がらんのという人物は、とても信頼されているようだ。やる気のない表情だが、佇まいや姿勢が他の者とは違う、とは考えていた。とてつもない人物なんだろう。


あちこち街を回る。活気のいい街だ。ゴロツキのような連中も、挨拶をすれば気さくに返してくれる。いい場所だ。


「で、此処がおれ達傭兵がよく使うギルドだあ」


焔丸に案内されたのは、街の中で一番大きな建物だった。人も沢山いる。

その中に、見知った顔があった。


「あ、おーい、エデン!」


天然パーマの男が此方に手を振る。それはブラウンだった。他にも、護、フレッド、ハーロックもいる。


「ブラウン、皆……」


エデンは何処か安心感を得て、手を振り返した。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る