五頁ーリンク界ー



なんて事をしてしまったんだろう。


エデンは宿から外に出て、暗がりの中一本の木に寄りかかってずるずるとしゃがみ込んだ。

宵月は怖がっていた。確信した。エデンに押し倒され怯えていた。自責の念で頭をぐしゃぐしゃと掻く。すると。


「まだピースを集めていないのか」


声がした。エデンが顔を上げると、そこには"闇"がいた。黒い髪に昏い黒い瞳。黒の装飾のその男は、ヘヴンのいた世界でも会っている。


「君は……名前は?」

「……クラウス」


闇の男、クラウスはぶっきらぼうに名乗った。エデンが立ち上がるのを見つめたまま、彼は口を開く。


「我は世界が嫌いだ」

「世界……?」

「全ての世界が嫌いだ」


きっぱりと言い切るクラウスに少し虚しさを感じて、エデンは眉を下げた。そんな事を気にせずに、クラウスはエデンの前に立つ。


「だから、今お前を殺せば、ピースの回収は困難極まれる」

「な……っ!?」


気付いた時には遅かった。エデンはクラウスに両手で首を絞められた。手を離そうと藻掻くも、力が強過ぎてびくともしない。

呼吸が出来ない。頭痛がする。酷く苦しい。なのに、何故クラウスの方が苦しそうな顔をするのだろう。

エデンは抵抗を辞めた。それでも尚首を絞めるクラウスの頬に、そっと触れる。昏い瞳が見開かれる。エデンは、微笑んで見せようとした。


そうしたら、ぱっと手が離れた。呼吸が出来るようになり、蹲り喘いでいると、その間にクラウスは走り去ってしまう。心配そうにその背を見つめてから、エデンは呼吸が整うまで安静にした。



「……エデン。エデン、大丈夫か?」


どのくらい経ったのだろう、声が聞こえて、エデンは視線を上げた。そこには、夜中色の髪をした美男子が立っている。

彼は、


「神月か……?」

「……何故、判った?」


神月は、低い声で問うた。


「どうもこうも、お前は神月だろう?」

「俺は宵月と瓜二つだ。なのに何故すぐ判った?」

「それは……」


説明が難しい。纏う雰囲気というか、佇まいと言えばいいのか、思案していると、神月が手をさし伸ばしてきた。


「寒いだろ。部屋まで送る」

「……嗚呼、すまないな」


手を掴み立ち上がらせてくれる。神月に微笑み礼を言うと、神月は頬を赤らめた。そして、


「俺の方こそ、すまない」


それが聞こえない位の速さだった。後頭部に手刀を入れられ、エデンは意識を失う。エデンを軽く担ぐと、神月は夜の中へ姿を消していった。







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