四頁ーリンク界ー
月影に報告があるという事で、ハーロックは屋敷に残り、護とエデンと宵月は帰路についた。エデンはとある店の前で足を止め、護に声を掛ける。
「護、此処までで大丈夫だ。今日はありがとう」
「んん? おう、判った。んじゃまたな」
"またな"
手を振って去る護。もう彼には会えない。だってエデンはこの後、死ぬのだから。
「……エデン?」
心配そうに此方を見つめる宵月。綺麗な赤い瞳だ。見る度に胸が高鳴る。
「嗚呼、ここ、ケーキ屋だと思ってな。何か買いたいんだ。付き合ってくれるか?」
「……ん、勿論」
宵月はこくりと頷いた。エデンと共に店に入り、商品を眺めていく。
目に止まったのは、フォークとスプーンの形をしたクッキーだった。質素で可愛らしい。それに値段も他に比べて安い。
「お兄さん、それね、私の娘が焼いたクッキーなんだよ。だから値段も安くしててね。おひとつどうだい?」
気の良さそうなおばさんの店員が自慢げに話す。それが微笑ましくて、「ふたつお願いします」とエデンは応えた。
「俺の世界の通貨が使えて助かった。だが今後の為に節約はしないとな……」
店を後にし、ぶつぶつと金銭事情を考えてるエデンは、宵月にクッキーの入った袋をひとつ手渡した。封を切ると、ほんのり甘い香りが漂う。エデンはクッキーをひとつ摘んで食べると、「美味しい」と微笑んだ。
「宵月も食べな? 美味しいぞ」
「……嗚呼」
宵月も一口クッキーを口にする。味わうようにゆっくり咀嚼し、
「……本当だ、美味しい。……甘い」
と、何処か悲しげに呟いた。その表情に、エデンの心が揺らぐ。
「……宵月?」
宵月は黙々とクッキーを食べている。気の所為だろうか。気の所為だといい。そう考えながら、エデンは宵月を見つめていた。
*
宿屋に泊まることにした。ふたつのベッドが並ぶだけの簡素な部屋で、やっと寛げるとエデンはベッドに腰を下ろした。
しかしながら、
「何故俺は死なないのだろう……?」
思わず呟いた。眉を下げた宵月がエデンを見つめる。ヘヴンのいた世界では、ピース回収後、小一時間で謎の死を遂げた。だがこの世界のピースを回収し、もう六時間は経過している。
「……この世界は、特殊だと聞いた」
考え込んでいると、宵月がぽそりと呟いた。リンクの世界。神月と宵月のように、瓜二つの顔の人物がいる世界。
此処には色んなものが流れ着く。
白雪が言っていた科白だ。もしかして、
「この世界には、複数のピースが存在する……?」
エデンが宵月を見る。彼と視線が合う。そうかもしれない。そう宵月は呟いた。綺麗な赤い瞳がそこにある。澄んだ赤だ。吸い込まれそうな綺麗な色だ。
自然と身体が動いていた。エデンは宵月の方に忍び寄り、そっと頬に触れた。ぴくりと震える身体。それも構わず、頬から顎、唇に触れ、じっとその赤い瞳を見つめていた。
「……エデ、ン……?」
宵月の震えた声で我に返った。気付けばエデンは、宵月を押し倒していた。不安そうに此方を見る宵月。その赤い瞳が揺れる。
「……っ! すまない! 頭を冷やしてくる!」
ばっとエデンは起き上がると、そそくさと部屋を出ていった。
呆然としたままの宵月は、ぐっと自身の唇を噛んで震えていた。
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