三頁ーリンク界ー



目的地に辿り着くと、そこには廃れた屋敷が一軒建っていた。護衛という事で、護とハーロックが着いてきてくれている。「はじめまして」と二人に言われた時は少し驚いたが、ここがリンクの世界であると言うことを頭に刻み込む。


「月影さーん、護です。お客さん連れてきましたよ」


大きな扉をノックし、護が声を掛ける。返事は無い。だが構わず護はその扉を開けた。中は土埃が舞っていて、清掃が行き届いておらず、少しカビ臭さもあった。ずかずかと中に入る護とハーロックに、エデンと宵月が続く。

研究者とは、いったいどんな人なのだろうか。所謂"マッド"な人だったり、解剖大好きな老人なのだろうか。そんな事を考えていると、ひとつの個室の扉を、護はノックした。


「入っていいぞ」


若い男の声がした。護が扉を開けると、薬品だらけの大量の棚が目に入った。書類がばら撒かれたテーブルに、ひとつの質素なマグカップ。そして椅子に、エデンよりも若そうな青年が気怠げに座っていた。黒い髪に青のインナーカラーの入った髪は長く、首の後ろで簡素に纏められている。切れ長の瞳は青い。


「月影さん、お客さんです」

「……ん。まあ座れ」


護とハーロックは部屋の外で待っていると言い、エデンと宵月は小さな椅子に座った。それだけで部屋がいっぱいな気がする。そんな事も構わずに、月影は値踏みをするようにエデンと宵月を観察した。何処と無く緊張しながら、エデンは事の経緯を話し始めた。



「……ピース、ifの世界、ねえ」

大体聴き終わった頃、ふむと一息吐いて月影は呟いた。


「何か聞き覚えは?」

「ねえな。初めて聞く。所で、そのピースの詳細を教えてくれ」

「……俺達も詳しくない。色んな形をしているそうだ。一つ目はナイフで、二つ目はネックレスだった。俺の身につけている水晶玉に吸い込まれていく」


月影の質問に、エデンは真面目に応えた。ふーんと呟く月影は、ふと棚をごそごそと掻き分け始める。なんだろうとエデンと宵月が顔を見合わせていると、


「これは?」


と真っ黒なビンを取り出し、エデン達の前に突き付けた。すると、そのビンは霧散し、エデンのネックレスの水晶玉へと吸い込まれてく。


「……嘘じゃねえんだな」


興味深そうに月影が呟く。エデンが吃驚していると、宵月は冷静に問いてくれた。

「何故判った?」

「そのビンは、異質な物質で出来ててな。興味本位で手に入れたんだが、どうにも砕けねえし溶かせもしない。だから薬の素材にならず放置してたんだよ」


ピースは異質な物質で出来た、壊れない何かだろう。

と月影は結論付けた。感心するエデンと宵月は、はと気付いて互いに視線を交わす。


「という事は……」

「この世界のピースは回収出来たな」


宵月がにこりと微笑む。エデンも微笑み返すが、そこに月影が割り込んだ。

「つまりは、エデンは死んで世界トリップをすると」

「……」

黙り込むふたり。それに構わず、月影は続けた。

「エデンが死んで世界をトリップしてるのは、水晶玉のおかげだったな? なら宵月、お前はどうやって世界をトリップしてるんだ?」

「……!」


それもそうだ、とエデンは宵月を見た。宵月は何故か黙ったままだ。「答えたくないならいいけどよ」と月影は言って、ずいとエデンに囁いた。


「ところで、何か欲しい薬はあるか? 金さえあればなんでも作るぜ」

「……遠慮する」


嫌な予感がする。早急に去るべきだとエデンは考えて、宵月の手を引いて部屋から出ていく事にした。






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