五頁ー楽園ー


「で、このべっぴんさんは誰? 吃驚人間と言うのは判ったけど」


護達に説明を迫まれて数十分。「お前等いい加減にしろ」というヘヴンの鶴の一声に、今日は宿屋で休む事にしようと言う事になった。

エデンと宵月は同じ部屋を割り当てられた。鎌鼬によって出来たエデンの傷を甲斐甲斐しく治療しながら、宵月は呟く。


「来るのが遅れて申し訳なかった……。でもこうしてエデンが無事でなによりだ」

「いや、まさか宵月までif世界に来てるなんてな。どうやって来たんだ?」

「……」


沈黙する宵月。何か悪い事を訊いたか、と首を傾げる。


「そうだ。明日はあのケーキ屋にまた行こう。好きだろう、宵月?」

「……嗚呼」


小さく微笑む宵月は、何処か歯切れが悪そうだ。手当をし終わり、救急箱を片付けている彼に、エデンはぼそりと呟いた。


「……こうして、またお前と会えて嬉しい。これからピース集め、頑張って行こうな」

「エデン……」


宵月の表情が晴れる事はない。何か申し訳ないことを言ってるだろうか。そう思案していると、身体に痺れを感じた。熱い。喉が焼ける様に熱い。

がたんと音を立てて床に倒れていた。息が出来ない。苦しい。原因不明の痺れと焼けるような熱さで、視界がぼやける。宵月が身体を支えて声を掛けている様だが理解が出来ない。なんでいきなり、こんな苦しい。


エデンの意識は、そこで途絶えた。



エデンが死んだ。

突然苦しみ出して倒れたかと思うと、首をかき乱して息を引き取った。


「お疲れ様でございました。宵月様」


そんな中、突如としてグリが現れる。いつもの笑みを顔に貼り付けて。


「……どうして、エデンは死んだ? そういう"システム"か?」

「さあ。私には判りかねます」


飄々とグリは言う。沈黙して睨む宵月に、グリはくすくすと笑う。


「さあ。王の後を追いましょう。再び代償を頂きますね?」

「……」


トリップする度に代償を払う。そんな事は聞かされていないが、仕方がない。宵月は息を吐いて、それに応じた。


「次は何が望みだ?」

「そうですね……視力に致しましょう。片方で構いません」

「判った。早くエデンの元に送ってくれ」

「かしこまりました」


とんとブーツで床を叩く。魔法陣が展開され、宵月はそれに包まれていった。



「今日も異常なし、と」

「手を抜くなよ、白雪はくせつ

「判ってるよ……君はいつもしつこ過ぎ」

「……どうやら異常なしではなさそうだ」

「は?」


ふたりの人影が銀髪の青年が倒れているのを見つける。

そこからまた、新しい世界での話が始まる。







第一章.完.

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