四頁ー楽園ー



「何があった!? エデン!?」


大きな音で駆け付けたヘヴンを見遣り、嗚呼無事だったかと安心する。エデンは声をあげて、ヘヴンに向かって叫んだ。


「鎌鼬だ! 周りの人達は大体避難させたが、取りこぼしがいないか確認頼む!」

随分駆けずり回ったのだろう、エデンは切り傷だらけだった。母が発する強風、鎌鼬によるものだ。それを確認したヘヴンは、唇を噛みつつも周りの警戒へとまわる。


「どうしたのです、母上……!?」


エデンは声を張り上げて母に叫ぶ。母の鎌鼬は止まず、寧ろ範囲が広がりつつあるようだ。このままでは、城が崩れる。


「困ってるみたいじゃん、エデン」

「どどどどどうします、この状況?」

「エデンの母上様……っ」

「エデン、俺達も協力するよ」


そこに、護、フレッド、ブラウン、ハーロックが集結した。ほっと息を吐いて、エデンは少しだけ頬を緩ませる。


「助かる、皆。なら城の皆を外に」

「そんな事したら母上とエデンが危ないじゃん」


護が正論を言う。ぐっと押し黙ると、ぽんと肩を叩かれた。ハーロックだ。


「死ぬ時は皆一緒。でも、母君を助けよう」

「……嗚呼、死ぬなよ、お前達……!」


それぞれ武器を構えて母と対峙する。城が崩れるのは時間の問題。早く解決策を見つけなければ。


「その必要は無い」


高所から、声が鳴った。エデンの上空をひとりの人影が舞う。夜中色の長い髪が踊る。華奢な身体からは想像のできない身体能力で、宵月はエデン達の前に降り立ち、母へ向かって走り出した。


「……っ!? 危ない!」


遅かった。

宵月は切り刻まれた。片腕が吹き飛び、首が跳ねられる。ごとん、と重い音がして、彼の首が転がる。

エデンは頭が真っ白になった。キャパオーバーを起こしそうになる。それでも我に返ったのは、切り刻まれた宵月の身体がまだ走っていたからだった。


「だから大丈夫だ」


足元から声がする。それは落ちている宵月の首から鳴ったものだった。赤い瞳と目が合う。


「あ……っ、…………、……え……?」

混乱していると、宵月の身体は母を押さえ付けていた。片腕で器用に組み倒し、首に飾られていたネックレスを千切り、エデンの方へ放る。

紫色の石の着いたネックレスだった、それは靄のように溶け、エデンの首に下げている水晶玉のネックレスへと吸い込まれる。


辺りは静かになった。鎌鼬が止んだのだ。

「これでこの世界のピースは回収出来たな」

首だけの宵月が言う。身体はというと、片腕を拾いながら此方へと歩み寄っていた。五人がドン引きしている間に「彼女の保護を」という宵月の声で我に返ったフレッドとブラウンが、母の元へ走っていく。


「……宵月、お前は何者なんだ」

身体に首を差し出しながらエデンは問う。首を受け取り、切断面を癒着させながら、宵月は呑気に応えた。

「自分でも判らん。ただ人間ではないとしか」

「……」


かくして、事件は一件落着したのである。

エデンは大きく溜息を吐いて「ああいうのは心臓に悪いから辞めてくれ」と愚痴を零した後、宵月との再会に微笑んだ。





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