二頁ー楽園ー


其処は本当に楽園だった。

俺達が造った理想の、あの楽園そのものだった。


「で、お前……っつーか"エデン"が王。俺が王妃。そこまで判ったか?」

簡易的に説明された事柄は、ヘヴンが王妃であるという点以外は全て同じだった。そして城の入口まで来ると、見知った顔が出てくる。黒髪短髪の護、肩までの茶髪のフレッド、天然パーマのブラウン、青髪にバンダナをしているハーロックだ。


「エデン、おかえりー」

護が手を振るので思わず振り返す。

「なんだ、護は知ってるのか」

「……護も、フレッドも、ブラウンもハーロックも知っている」

「……」

ヘヴンは面白くない顔をしながらも、てきぱきと護達に指示を出している。できる女と言う印象が強いヘヴンだが、エデンは本当に彼女に見覚えが無かった。何故だろうと考えても、答えなぞ出てこないが。



「それは此処が"ifの世界"だからだ」

夜。城の一室を借りてベランダで外を眺めていたら、突然現れた男がそういった。因みに自室(?)は、申し訳なく感じて入室を拒否した。護達に不審がられたが、そこはヘヴンが誤魔化してくれたようだ、感謝しかない。

それよりも、この男。一体何処から現れたのか。いつの間にかベランダの柵に座って、俺がぼやいた疑問に応えてみせた。黒い髪に黒い瞳。闇を思わせるその男に、エデンは声を掛けた。


「……ifの世界?」

「そうだ。此処はお前の居た世界では無い別の世界。元の世界のお前は死んでいる」

「……」


記憶を遡る。確か鉄柱が落ちてきた筈だ。それの下敷きにでもなったのか。では、何故俺は今こうして生きているのか。


「その水晶の力だ」


世界トリップの説明を聞き、エデンは成程と頷いた。

「でも、お前は何で俺にそんな事を教えて……」


そう訊いた時には、その男の姿は何処にもなかった。寂しく吹く風に髪をなびかせ、エデンは宵月の事を思い出してふと感慨深くなっていた。



果てしなく白い。

よろよろと白い空間を徘徊しながら、宵月は探す。エデンを。エデンとピースを。だが、此処は本当に"どう言った空間"なのだろうか。一向に出口が見えない。早く彼に会いたいと言うのに。


しくしく、しくしくと啜り泣く声が聞こえる。少女のものだろうか。宵月は辺りを見渡して、その声の主を探す事にした。白い空間は続く。ただ、徐々に白い椅子やテーブル、布切れやぬいぐるみ等が現れ始めた。全てが白い家具。家具が増えていく方向に、宵月は只管歩いた。


とあるベッドがあった。そこにひとりの少女が座って泣いている。白い髪飾りをした白い髪。白い肌に白いワンピース。小柄な少女は、小さな肩を震わせて泣いている。


宵月は自然と、その少女の元へ向かった。そうするのが自然な行為だと言うように。彼女は顔を上げて、涙を溜めた瞳で宵月を見上げた。

薄い赤と薄い青。そのオッドアイから涙を流しながら、少女は呟いた。


「ずっと待ってたんだよ、宵月……」

「……生是いぜ


宵月はこの少女と面識があった。でも彼女はもう死んでいる。彼処の世界では。これが"if"か、と考えていると、少女は宵月に抱き着いた。


「もう何処にも行かないで……わたしを独りにしないで……」


独りはさびしい。

孤独はかなしい。


そう少女は泣いた。宵月は彼女と共に過ごしていた時期がある。ただ、生是は死んでしまった。寿命だ。仕方の無い別れだった。だのに、今更見せてくるとは。


「宵月……よる……もう何処にも行っちゃ嫌だよ……」


泣きじゃくる少女を前にして、宵月の心はかき乱されていた。









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