一章

一頁ー楽園ー


さみしい。

かなしい。


独りは、さみしい。

孤独は、かなしい。


誰か、わたしを見つけて。

そしてずっと、傍に居て。



「どうしたんだよ、エデン」

「……えっと…………」


短い黒髪の女性が、訝しげにエデンを睨む。なんだか申し訳なくなったエデンは、よそよそしく彼女の手を取り、起き上がった。

ぐん、と力強く引っばられる。とても頼りがいのある腕だ。女性に言うのはしのびないが。


「まだ寝ぼけてんのか?」


女性は不機嫌そうに腕を組んだ。ラフな服装から除く腕は細身だが引き締まっていて、とても美しいと思う。

エデンは暫く考えてから、恐る恐る口を開いた。


「その……誰だろうか、君は……?」

「はあ? 寝ぼけすぎだろ犯すぞ」

「おか……っ!?」


エデンはプチパニックを起こしている。そもそも、此処は何処だろうか。あの魔法使いは? 宵月は? 様々な事を考えながら、取り敢えずこの女性の対処をしようと考えつく。


「誰構わず犯すなんて言ってはいけない。君は女性なのだから」

「関係ねえだろ、俺達"夫婦"なんだし」

「……」


完全に思考が止まった。聞いていない。それはそれは聞いた事すらない。

「待ってくれ、俺は独身だ」

「あ?」

「……本当なんだ、君を知らない」

じっと見つめ合っていると、女性が大きな溜息を吐いた。そしてどこか納得した様子で、

「ならそうなんだろうな」

とだけ呟いた。その瞳が少し寂しそうに見えたのは、気の所為だろうか。


「俺はヘヴン。取り敢えず帰るぞ」

「帰るとは?」

「ここが何処かもどうせ判らねえんだろ?なら連れて行ってやるよ」


女性、ヘヴンがエデンの腕を掴んでずんずん歩いていく。頭の中がクエスチョンマークでいっぱいのエデンは、"その言葉"を聞いて目を見開いた。


「俺の、俺達の自慢の"楽園"にだよ」



真っ白な空間だった。

宵月が気付いた時には、ここに立ち尽くしていた。白い壁と床と天井。それ以外が淘汰された空間。状況を確認しようと辺りを見渡していると、足音が聞こえてきた。


「やあ、宵月」


長身の男だった。ざんばらに切った黒髪に水色と金色のオッドアイ。胡散臭い笑顔で気軽に呼んできたその男、彼岸を、宵月は睨みつけた。


「そんな反抗的な態度取らないの。ほら、おいで?」


びくりと宵月の身体が震える。それを構うことなく、彼岸は彼に歩み寄り抱き寄せた。身長と体格の差で、彼岸の腕の中にすっぽり収まる宵月の身体。その身体をまさぐりながら、彼岸はにっこり微笑んだ。


「私のお願い、ちゃんと出来たね? 偉いねえ」

宵月は何も答えない。応えたくない。無意識に身体が震える。そう躾られてきたからだ。

「ご褒美、欲しいよね?」

彼岸はそのまま宵月を床に押し倒す、身体中をまさぐる手つきが、段々と"彼処側"の方に変わっていく。応えないでいると、彼岸の大きな手が宵月の首を掴んだ。へし折らんばかりに。

「……宵月。返事」

冷えた声。その声に、宵月は首肯するしかなかった。


「愛してるよ、私の宵月」


満足気に笑った彼岸の顔がすぐ目の前にある。宵月は視界を閉じる事も許されずに、ただ襲い来る快楽に身を委ねるしかなかった。





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