三頁
「……で、この公園にはとにかく鳩が沢山くる。餌付けするとかなり群がるから注意だ。それと此処は花壇の花がいつも綺麗で……、手入れをしてくれてるおばさんがいるんだが……」
「……」
観光旅行と言っても、何気ない事を何事もなく言うだけになってしまったな。とエデンは我ながら苦笑した。それでも真顔で話を聞いてくれる宵月に感謝し、エデンは楽園を案内する。
「此処は偶にわたあめが売っている」
「……ワタアメ?」
見慣れたわたあめ機の前に立つと、宵月はそれを訝しげに観察する。何か判らないのだろうか。
「ひとつ下さい」
「陛下……! ありがとね!」
気のいいおじさんが大きなふわふわのわたあめを器用に作るとエデンに渡し、エデンは受け取りコインを渡す。そしてそのわたあめを宵月に手渡した。
「ふわふわで、甘くて美味しいんだ」
「……」
まじまじとわたあめを見てから、宵月はひと口それを口にした。すると目を見開き、エデンの方を見る。
「甘い。直ぐ口の中から消える」
「……ふ、そうだろう?」
まるで子供のような反応をする宵月に微笑んで、エデンはわたあめを夢中に食べる宵月を眺めた。その顔は正に絶世の美男という言葉が似合うほど美しく、愛しさすら湧いてくる。そんな自分が少しこそばゆいが。
「後は、この近くのケーキ屋が名物でな。甘くて美味しいんだ」
「……甘くて、美味しい…………」
わたあめを完食した宵月の瞳が、甘いものを求めている気がして微笑ましくなったエデンは、早速そのケーキ屋に向かう事にした。
「ショートケーキと、チョコケーキが人気なんだ」
イチゴの乗った白いケーキと、チョコクリームで彩られたケーキを二つ指さすと、宵月はショーケースの中をじっと睨んでいる。
……何分経っただろうか。
「宵月?」
「……どちらにするか悩んでいる」
「どっちも買うから……」
エデンは苦笑しながらケーキ二つと紅茶二つを頼み、席に座ってまったりお茶にする事にした。
「それにしても、本当に覚えてないのか?」
ぽつりとそんな事を呟いてしまった。黙々とケーキを食べていた宵月の手が止まる。
「覚えてない、とは」
「俺が子供の頃、足を駄目にして死にかけていた所を宵月に助けて貰った時の事だ。……それとも、他人の空似なのだろうか……」
「……何年前の話だ?」
「かなり昔だな。この国がまだ集落だった頃。あの嵐の日の森の中で」
「嵐、か」
エデンは紅茶を飲むのを辞めて宵月を見やった。宵月はじっとエデンを見ている。首を傾げたエデンに、宵月はぼそっと呟いた。
「まさか、あの時の子供か……?」
「……!」
宵月は目を細めた。まるで懐かしむように、安心したように。
「無事でなによりだ」
「宵月のおかげだ。それに皆の」
エデンも目を細めて微笑む。その時だった。
大きな地震が始まったのは
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