episode.10

「あっ、レオネル様っ、もっ、駄目ですっ」


敷布をギュッと握り、私は涙を流しながらイヤイヤと頭を振っていた。

レオネル様が舌で責め立てるいやらしい音が響く。

舐られる快感がゾワゾワと全身を這い回り、私はガクガクと足を震わせた。


「んっ、もうっ、んんっ、あぁっ」


嬌声が段々と高く大きくなってきた時、レオネル様は指でそこを捲り剥き出しになったその場所にしゃぶりつくように吸い付いた。

音がする程吸い付かれ、目の前がチカチカと白む。


「んっ、いやぁっ、ダメっ、んっ、んんっ」


私はビクッと身体を痙攣させて絶頂に達した。

レオネル様の楽しそうなクスクス笑いが聞こえ、剥き出しになったその場所をからかうように舌で突かれ、達したばかりの私はその動きに合わせるようにビクビクと身体を仰け反らせた。


レオネル様がはまたその場所に舌を這わせる。

わざと水音を立てながら、そこを熱い舌で擦られ続け、私の身体が更に跳ね上がった。


「はっ、やっ、もっ、ダメっ、やぁっ、やっ、そこ、ダメぇっ」


フルフルと必死に頭を振っても、レオネル様はそこを舐り続け、様々な角度から快感を与え続けた。

ハッハッと短い息を吐きながら、私の瞳から涙が止めど無く溢れ続ける。

焦点を失った目で天井を見上げていると、余計に神経がレオネル様の舌が這う場所に集中してしまい、強過ぎる快楽の波に飲み込まれていった。


また限界を超えそうになり、脚がブルブルと震える。

それを確認したレオネル様は、また強くそこを吸い上げた。


「あっ、ひっ、やぁっ、ダ……メぇっ」


身体が激しく仰け反り、ズキズキと痛いくらいに下腹部が疼く。

私から溢れたものが敷布を濡らしていった。


「やっ……んっ……んっ……」


立て続けに絶頂に叩き込まれた私は、ガクガクと全身を痙攣させ、意識が混濁していくのを感じていた。

そのまま気を失いそうになったその瞬間、激しい音を立てて強く腰を打ちつけられ、目の前でチカチカと火花が散った。


「やっ、やぁぁぁぁぁぁっ!」


続けて何度も腰を打ち付けられ、花弁を押しのけてレオネル様の反り返った熱いものが私の奥をコツコツと叩く。


「あっ、いやぁっ、あっ、やぁぁぁぁぁぁっ」


もう悲鳴のような嬌声を上げる私を、レオネル様が愉悦の表情で見下ろしている。


「君は乱れれば乱れるほど、艶っぽく美しくなるな、リゼ。

そんな君を知ってしまっては、もう自分を抑えられない………。

君が俺を獣に変えるんだ、リゼ……」


クツクツと笑うその瞳の奥が、獣のようにギラギラと闇夜に輝いて、私はゾクリと背筋を震わせた。

その妖しくも荒々しい美しさは、今まで見てきた洗練されたレオネル様の美しさとは全く違い、そんなレオネル様を知ってしまった私こそ、もう溢れる想いを抑えられなくなっていた。


それでも、レオネル様に不釣り合いな自分を押し付けるような事はしたくなくて、ギリギリのところで言葉を飲み込む。


耐えるように唇を噛む私を責めるように、レオネル様は何度も何度も腰を打ち付けた。


「んんっ、もうっ、やぁっ、あっ、そんな、激し……」


耐えきれなくなって嬌声を上げる私をレオネル様は満足そうに見つめている。

膝を掴まれ足を左右に大きく開いたはしたない格好でレオネル様に激しく責められながら、私はまた抗いきれない高みへと昇っていった。


「んっ、ふぁっ、も、もうっ、んぁっ、いっ、レオネルさまぁーーーっ」


ガクガクと身体を痙攣させて私は絶頂に達した。

ハッハッと荒い息をつく私を、レオネル様は更に激しく突き上げた。


「あっ、ひっ、やっ、ダメっ、もぉ、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


激しく身体が仰け反り、私の中から流れるものが音を立て溢れた。

私のもので濡れて冷たくなった敷布の上で、私達はまた一晩中身体を重ね合う。


何度も何度も絶頂に誘われ、その度に気付けのような軽い回復魔法をかけられて、私は獣に貪られ続ける………。


それは甘く激しく、そして濃厚に、朝まで私を離しはしなかった………。








「おかしいわ………」


部屋をウロウロと歩き回りながら、私はブツブツと独り言を呟いた。

この邸に滞在して、もう8日。

依然、部屋から出してもらえる気配は無い。

毎晩レオネル様に抱き潰されて、遅い朝を迎える怠惰な生活に、私は流石に疑問を抱き始めた。


「まずは、状況整理からね」


もはや自分の独り言に違和感が無くなってしまっている事に、私はまだ気付いていなかった。


「私はエドワルドに呪いをかけられ、前後不覚になり、このお邸に来てしまった。

これは私の明らかな失態ね。

あっ、違うわ……はぁ、またそんな風に……。

シシリア様にはどんな事でも、もっと自分を頼るようにと言われているじゃない……。

失態なら、エドワルドと2人きりで対峙した事よ。

魔法が使えるからと驕って、相手を舐めていたわ。

師匠にも慢心は命に関わると言われていたのに……」


ブツブツ独り言を言いながら、私は部屋をウロつく。


「待って、これじゃ省察だわ。

今は自己分析では無く、状況整理よ。

そう、このお邸の近くで弱り切っていた私を、レオネル様が救助して下さり、邸に招いて下さった。

それから、呪いで命を落とそうとしている私を、助けてくださったのよ。

……ただ、呪いの特異性のせいで解呪には私の純血を捧げる必要があったのよね。

レオネル様はそれを気に病んで下さり、私に婚姻の申し込みまで………。

あれは人命救助による致し方ない結果だったと、もっとしっかりお伝えするべきね、ここは。

それから、レオネル様は私にも責任をお求めになった。

当然の事だわ。どんな理由があれ、私はアロンテン公爵家の後の後継ぎを孕んだ可能性があるのだもの………」


ふと無意識にお腹を撫でて、胸の中がポッと暖かくなるのを感じ、私は慌てて頭を振った。


「そう、私を邸に滞在させるのは、それが理由。

あとはエドワルドについての証人保護の意味合いもあるわね。

この2点において、私に異論はないわ。

ただ、そうね……証人保護の意味合いで言えば、わざわざこの邸で保護せず、憲兵の刑事部に引き渡して下さってもいいのだけど。

やはり、月のものがきたら、自分からこちらを去るべきね。

そして憲兵に保護してもらいましょう」


うんうんと頷きながら、私は顎に手をやり、眉間に皺を寄せながら、ん〜〜っ?と天井を見上げた。


「ただ………分からない事は………。

レオネル様があれから、毎晩私をお抱きになる事、よね………。

初日の行為は人命救助だったし、呪いが解けた後も続けてお抱きになったのも、初めての事で加減が分からないと仰っていたから、そういうものとして理解しているけれど。

では、次の日からの行為は、何なのかしら?

例えば、初日の行為で子を成していなかったとしても、その後の行為で出来てしまっているんじゃないかしら?

それではレオネル様の不利益になるのでは?

人的救助により保護していた私との間に、予期せず出来た後継ぎより、正式な奥方となる方と、手順を踏んで出来た後継ぎの方が、レオネル様もアロンテン家も、周りの目を気にする必要も無く、普通に良いのでは?

では何故、レオネル様は私との間に子が出来る危険性のある行為をお止めにならないのかしら?」


んんっ?と首を捻り、私は本棚をチラッと見た。

この部屋から出る事を禁じられている私に、マーサが様々な本を取り揃えてくれているのだけど………。


中には刺激の強い本も混ざっている。

つまり、男女の夜の営みについての本………。

その分野には無知である私は、意を決して一冊棚から抜き出した。

ゴクリと唾を飲み込み、表紙を捲る……。

ここに答えがあるかも知れない、と期待を込めて………。



………結果。

私は真っ赤になってソファーにうつ伏せる事になってしまった。

男女の夜の営みのアレコレを、つい真面目に読み込んでしまい、過激なところまで足を踏み入れてしまったからだ。

……ううっ、男性のアレを女性がアレするだなんて………。

知りたくなかったわ………。

………でも、レオネル様はアレをアレしたらお喜びになるのかしら………?


そこまで考えて、私はハッとしてガバっと起き上がった。

何を考えているのかしらっ!私ったらっ!

なんて破廉恥ではしたないっ!

例えお喜びになったとしても、淑女のやる事では無いわっ!


ハァーハァーと肩で息をつきつつ、さっきの私の動きで机から落ちた本のページがハタと目に止まり、私はそのページに釘付けになった。

震える指で本を拾うと、夢中でそのページを読み進める。


「こ、これだわ」


探していた答えにやっと辿り着き、様々な男女の夜の営みに関する本を読み漁った努力が報われ、達成感に胸が一杯になる。


恥を忍んだ甲斐があったわ………。


そこには、男性の性に関しての事柄が細かく記されていて、こう書かれていた。


『初めて女性を知った男性は、当分の間女性の身体とその行為に夢中になり、頭がそれに占領されてしまう。

その様子は、しばしばある獣に揶揄される事がある』


ある獣についての詳細な記述は載っていなかったけれど、これで間違い無いと私は思った。

何故なら、私との行為の最中レオネル様は獣のように激しい一面をお見せになるから。


そうだったのね。

レオネル様は女性の身体を初めてお抱きになったばかりだから、その行為に夢中になってらっしゃるだけで、それ以上の感情は存在していなかったんだわ。


私は少しだけ、自惚れていた自分を恥じた。

もしかしたら、レオネル様は私を求めて下さっているのではないかと、愚にもつかない妄想までしてしまっていた。


実際は、レオネル様が求めてらっしゃったのは、私の身体だったのね………。

初めて女性との行為を経験なさった、後遺症のようなものなのだわ………。

この本にも、そのうち落ち着いて、身体だけでは無く女性の心も愛せるようになる、と書いてあるもの。

つまり、私は今その身体だけの相手、だという事なのね………。


謎が解けて安堵する気持ちとは裏腹に、急速に心が凍り付いていくようだった。


だけど、何を嘆く事があるのよ、リゼ。

ずっとお慕いしてきたレオネル様に、人命救助的措置だったとしても、純潔を捧げる事が出来たのに。

その上、身体だけとはいえ、毎晩私を求めて下さっている。

この先婚姻などはせず、ずっと独り身でいると決めていた私には、夢のような状況じゃない。

例え今だけの関係だったとしても、それは喜ばしい事じゃない。

きっと、一生分の輝く思い出になるわ。


今の状況を悲観して過ごしたくは無い。

そう思って無理に自分を励ましてみても、悲鳴を上げる心は誤魔化せなかった。


私はそれ程深く、レオネル様をお慕いしているのだから。


好きな相手に身体だけ求められる状況は、心を引き裂かれる程の痛みを私に与えた。



………だけど。


「レオネル様を傷つける事はしたくないわ。

身体を所望なさるのなら、黙っていくらでも差し出してあげたい。

そしてその行為に罪悪感を抱いて欲しくない………。

満足なさったら、私から離れて下さって良い。

責任だなどと、背負って頂きたくない。

そこからは私は私の人生を、レオネル様はレオネル様の人生を、歩いていくのよ」


私は胸の前で、ギュッと手を握り締め、自分の決意が揺らがない内に、レオネル様にお伝えしようと心に決めた。

これ以上、自分自身の気持ちが溢れてしまわぬように、キツく蓋を締めて………。







その日の夜も、レオネル様は私の部屋を訪れた。

私はマーサの選んだいつもの薄い寝着にレオネル様が惑わされぬよう、上からガウンを着込んで襟をギュッと合わせてレオネル様をお待ちしていた。


「リゼ……今日の贈り物は随分厳重なんだな?」


楽しそうにクスクスと笑うレオネル様を見上げて、私は一度ギュッと口を引き結び、意を決して口を開いた。


「あの、レオネル様に大事なお話があります」


その私の真剣な眼差しに、レオネル様はいつものような冷静沈着な表情を取り戻し、コックリと頷いた。


「分かった、聞こう」


そう言ってソファーに私を促し、横に座ると、真面目な顔で私を真っ直ぐに見つめる。


「あの、まず、私は、やはりレオネル様にこの度の責任を追求したくありません。

つまり、私と関係を持った事で責任を感じ、婚姻すると仰るレオネル様のお考えを受け入れる事が出来ない、という事です」


努めて冷静にそう告げると、レオネル様の眉間に皺が寄り、その表情が険しくなった。


「ほぅ、それは何故だ?」


低い声色に震えそうになる身体を必死に抑え、私は冷静さを意識しながら再び口を開く。


「必要の無い事だからです。

私はこの先、誰とも婚姻する意思はありません。

これはエドワルドとの婚約破棄が決まった時に、改めて認識した自分の気持ちです。

レオネル様との事がある前から決めていた事です。

それから、私の方の責任はきちんと果たすつもりです。

もしお腹にレオネル様の子がいれば、私はその子への権利を主張する事はせず、アロンテン家に全てお任せ致します。

子供の顔が見たいなどと、困らせるような事も要求致しません」


キッパリと宣言すると、レオネル様の表情がますます険しくなり、怒りに近いものへと変わっていく。

その冷徹な雰囲気に、思わず身が縮こまってしまう。


「………君は、私との子を必要としていないのか?」


ゾクリとする程低く怒気を孕んだ声に、震え出す手をギュッと握って、私はレオネル様を真っ直ぐに見返した。


「はい、その通りです」


行きずりのような相手の子供より、レオネル様に相応しい家門の奥方が産む子供が、正しくアロンテン家の後継ぎになる事の方が望ましい。

私は自分の考えは間違っていないと自信があった。


けれど、見る見ると青ざめていくレオネル様の顔色を見て、胸の中に動揺が広がっていった。



………どうしてかしら?

私が何か、とんでもない間違いを犯してしまったような気がするのは………。


だけど、それが何か分からないまま、途方に暮れた気持ちで目の前のレオネル様を見つめた………。



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