episode.3

ハァハァと2人のいやらしい吐息が合わさり、私から溢れるものとレオネル様の放つ性が合わさった匂い、熱った身体から吹き出す汗で、部屋中が独特の淫靡さに包まれる。


もうどれくらいの時間が過ぎたのかも分からないくらい、私は獣のようなレオネル様に貪られ続けていた。


「リゼ………可愛いよ。

恥ずかしがらないでその蕩けた顔を俺にちゃんと見せなさい」


ベッドの上に崩した胡座をかいたレオネル様の上にはしたなく跨り、下から突かれながら、私はその胸に顔を埋めていた。

その私の顎を掴み上向かせると、レオネル様は愉悦の表情で微笑む。


「美しい……君がこれ程妖艶な表情の出来る令嬢だったとは………。

俺にめちゃくちゃに犯され喘ぐ君は、今まで見たどんな君より美しいよ」


クツクツと笑うレオネル様こそ、妖しい色気を放っていて、見つめていられない程に美しかった。

元々美しい容姿をした方だけれど、こんな風な色気を感じたのは初めてで、その色気を放たれる度に、下腹部がキュンと疼き、花弁がきつく収縮してしまう。


それを繋がった場所から感じ取ったレオネル様は、ますます愉悦の表情を浮かべた。


「可愛い子だ、これが好きなんだな?

もっと沢山してあげよう、君になら、いくらでも」


レオネル様は私のお尻をキツく掴むと、下から垂直に激しく奥まで穿つ。


「やっ、もぅ、だ、めぇ……んっ、やっ、あっ、レ、オネル、さまぁ……」


力無くレオネル様の首に腕を巻きつけ、揺さぶられるままの私に、レオネル様の下からの抽挿がどんどんと激しくなっていく。


「もっ、やぁっ、またっ、私……レオネルさまっ、次は、いっしょにって、んんっ」


必死にレオネル様に抱きつく私に、レオネル様は苦しげな息をついた。


「そうだな……次は一緒に果てようと、確かに言った。

リゼ、君の中にまた子種を注いであげよう。

良い子だから、俺がイクまで我慢するんだよ」


そう言ってレオネル様は下から私を激しく突き上げ、信じられない速度で抽挿を続けた。


快楽が繋がった場所から下腹部を痛いくらいに刺激して、ゾワゾワと背中を伝い、脳を支配していく。


「やっ、もうっ、ダメぇっ、レオネルさまぁっ、私、もっ、んっ」


ビクビクと痙攣する私をギュッと抱き締めて、レオネル様は甘く囁く。


「リゼ、可愛いリゼ……俺ももう限界だ。

一緒にイこう………くっ、君の中に、出すぞ、リゼッ」


「あっ、レオネルさまぁっ、んっ」


激しく身体を震わせた瞬間、私の中にレオネル様の熱い刻印が放たれた………。



…………淫獣より、今の私の方がよっぽどふしだらなんじゃないかしら………。

白む視界が暗転して、気を失う瞬間に、私はふとそんな事を考えた。






フッと意識を取り戻し、私はレオネル様の裸の胸に抱きしめられている状況に、少しパニックを起こしかけた。


(ああ、そうだわ……私は元婚約者であるエドワルドに、違法な魔道具で呪いをかけられ、そして………)


そこからここに至るまでの全てを一瞬で思い出して、私はカァッと顔を真っ赤にした。


そ、それで、あの、レオネル様が、呪いを解いて、でも、呪いが解けても離しては下さらず、その、あんな事やこんな事を……私達……。


獣のように交わった情景を頭に浮かべて、私は慌てて飛び起きた。


「痛っ、こ、腰が………」


激しい倦怠感と腰の痛みが、あれが夢なんかではないと訴えかけてくる。


「……キュアウォーター」


ポソリと呟き、自分に回復魔法をかける。

まさか、討伐依頼や師匠の修行以外で回復魔法を使う日がくるなんて。

つまり、レオネル様との睦み合いはそれ程体力を消耗するって事かしら?


バカらしい事を考えながら、眠るレオネル様にも回復魔法をかけようとして、ふと手が止まってしまった。

……大丈夫かしら、体力を回復なんかさせても。

元気になられたら、また、もしかして、あの、アレが………。


思わず頭に浮かんだはしたない考えを、ブンブンと頭を振って追い出し、私は意を決してレオネル様に回復魔法をかけた。


「キュアウォーター」


だけど回復を促す水魔法が大して浸透しない。

これはつまり、対象の体力がまだ十分に残っている、という事で…………。


その事に気付いた瞬間、ゾッと私の全身に悪寒が走った。

う、嘘ですよね?レオネル様………。

あ、あんなに、その、激しく、何度も何度も、もう覚えていられないくらい、なさっていたではありませんか………。

あまりの衝撃に、涙が自然と目尻に滲んだ。


ふと、自分の身体がサッパリとしている事に気付いて、私はレオネル様が生活魔法で清めて下さったのだと気付いた。

お気遣いの出来るレオネル様らしいけれど、ではどうして回復魔法はかけて下さらなかったのかと首を捻る。



「………んっ、リゼ……目が覚めたのか……」


その時、レオネル様が薄っすら目を開き、私はその美しさに息を呑んだ。


金色の切れ長の瞳に、長い漆黒の髪。

きめ細かく白い肌。

整った鼻梁。

細く逞しい体躯。

その美しい顔には、今日はいつもある眉間の深い皺はなく、余計に整って見えた。


あの皺も私は好きだけど、無いと何だかいつもより幼く見える………かも。

勝手な事を考えながら、ボゥっとレオネル様に見惚れていると、その腕が伸びてきて、私の髪を優しく撫でた。


「目が覚めて、君が目の前にいるなんて……」


まだ寝ぼけているようなレオネル様に、キュンと胸が締め付けられる。

か、可愛いわ……。

思わず畏れ多い事を考えてしまい、慌てて頭をフルフルと振った。


「……ん?リゼ、自分で回復魔法をかけたのか?」


そう言いながら、レオネル様は上半身を起き上がらせた。


「あっ、はい。呪いが解けて、魔法も使えるようになっていましたので」


そう、呪いをかけられると魔法が封印される。

そのせいでエドワルドを退けるのに苦労してしまった。

本当に、卑劣な男だわ。

ヒュウッと冷たい風が吹くような、そんな私の様子に気付かないくらい、レオネル様は口に手をやり小さな声でブツブツと呟きながら思案しているようだった。

何を言っているのか、エドワルドへの怒りで氷点下に達していた私の耳には入らなかったけれど。



「……そうか、リゼはもう回復魔法を習得していたんだな。

あれだけ疲弊させれば、当分の間動けないだろうと計算していたのだが………」


チッとレオネル様の舌打ちだけ聞こえて、私はビクッと身体を揺らした。


厚かましくもまだここに私がいる事に、苛ついていらっしゃるんだわ。

お礼は改めてさせて頂く事にして、今はいち早くこの場を辞さなければ。

焦ってキョロキョロと辺りを見渡す私に気付いたレオネル様が、訝しげに片眉を上げた。


「どうかしたか?リゼ?」


レオネル様に問われた私は、反射的に頭を下げる。


「あ、あの、私は直ぐにいなくなりますので、ご安心下さい。

それで、あの、私の着ていた服を下されば、直ぐに帰りますので、あの……えっと………レオネル……様………?」


私がそう言っている間に、レオネル様の顔色がどんどん白くなり、眉間に深い皺が寄っていく。

明らかに様子の変わったレオネル様に、私はビクリと身体を震わせた。


「いなくなる……?帰りたいのか?」


低く掠れたレオネル様の声に、私は真っ青になりながら頷いた。


「は、はい……あの、自分の邸に……」


ビクビクと震える私に気付いたレオネル様は、ハッとした顔をした後、ハァッと深い溜息をついた。


「君の邸には連絡をしているから、大丈夫だ。

君は当分この邸に滞在すると伝えてある」


レオネル様の言葉に、私は驚愕して目を見開いた。


「わ、私、ここに滞在するのですかっ!?

そ、それは何故でしょう?」


私の問いに、今度はレオネル様が目を見開いた。


「……何故って、君と私は、その、つまり。

男女の仲になったのだから、当然私には君への責任がある。

形式に則り、まずは婚約をして、後に婚姻して夫婦になるのだから、君がこの邸に滞在するのは当たり前の事だろう?」


頬を微かに染め、フイッと横を向くレオネル様に、私はハッとして、師匠がレオネル様に言った言葉を思い出した。



『……レオネル坊や、リゼ嬢ちゃんを助ける方法ならある。

お前さんがその方法でリゼ嬢ちゃんの命を助けると言うなら、最後まで責任を取らなくてはいけないよ?

お前さんにその覚悟があるのかい?』


レオネル様は律儀にも、師匠の言葉を守ろうとしているんだわ……。

そんな事、レオネル様ほどの方が気にする事では無いのに。

命を助けてもらった上に、そんなお気遣いまで、とてもでは無いけど受けられない。


私は慌ててレオネル様の腕を掴み、フルフルと頭を振った。


「いけません、貴方のような方が、私のような傷モノ令嬢と婚姻だなんてっ!

命を助けて頂いただけで十分過ぎるほどです。

あんな悍ましい行為を私の為に耐えて頂き……それだけでも、胸が裂けそうなくらい辛いのに………。

もう、これ以上は、貴方を傷付けられません……」


自然に涙が溢れて、ポロポロと頬を伝った。

レオネル様は顔を真っ青にして、少し震えた声で呆然と呟く。


「……悍ましい、行為………。

胸が張り裂けそうなくらい、辛い……?」


私の言った事をそのままに繰り返すレオネル様に、私は強く頷いた。


「はい、その通りです」


それ以外に何と言えばいいのか。

獣のような姿になった、悍ましい私と交わらせてしまった。

高貴なこの方がそんな目に遭った事が、胸が張り裂けそうなくらいに辛い。

私など放っておいても良かったのに、レオネル様の清廉さがそれを許さなかったのだろうと思うと、どうしたらいいのか分からない気持ちになる。

その上、私の純潔などの為に責任を取って婚姻しようだなんて、あり得ない事だわ。

どうかそんな風に責任など感じないで下さい。

私は、大丈夫ですから。


真っ直ぐにレオネル様を見つめていると、レオネル様は何やらブツブツと呟き、ガッと私の両肩を掴んだ。


「君にも責任を追求する。

君の純潔と私の初めての行為とでは、釣り合いが取れないが、お互い初めてを捧げた者同士、君にも私への責任が多少なりとも生じる筈だ。

それに君は、私の子を孕んだ可能性がある事を忘れてはいけない。

もし子がいたら、その子はこのアロンテン公爵家の後々の後継ぎとなるかもしれない存在なのだから、やはり君はその可能性のある限り、この邸に滞在するべきだ」


真っ青な顔で淡々とそう言われて、私はハッとして頷いた。


「確かに、アロンテン家の血を引く子を宿したかもしれない私が、勝手な行動をとるのは望ましくありませんね。

レオネル様のお考えに同意致します。

では、私がこの邸に滞在する期間は、次の月のものが来るまで、という事で宜しいでしょうか?

もし懐妊していましたら、それはその時に話し合いましょう。

その際私は、いかなる条件でも受け入れる覚悟です」


例え、子供だけ残して去れと言われても、受け入れるわ。

それだけの事を私はレオネル様にしてしまったのだから。

大丈夫、この邸で育つなら、きっと正しく清廉な、レオネル様のような人間に育つ筈。

元より、私はもう誰とも婚姻するつもりはなかったのだから。

レオネル様にはお辛い経験となっただろうけれど、私にとっては一生の思い出になる尊い出来事だった。

もし子供が出来ていたら、それだって本来なら望めなかった経験をさせて頂くのだもの。

私にはそれで十分だわ。

例え生まれた子と共に暮らせなくても……。


真っ直ぐに見つめる私に、レオネル様はギラリとその瞳の奥を光らせた。


「ほぅ………もし子を宿していれば、何でも条件を呑むのだな……。

では君には、私とその子への責任を取って、私と婚姻してもらう」


まるで獣が獲物を前にして舌なめずりしているような、レオネル様のその雰囲気に、私はゴクッと唾を飲み込んだ。


「あ、あの、ですから、私は傷モノ令嬢ですから、次期公爵であられるレオネル様との婚姻など……。

しかも、婚約破棄した元婚約者は、罪人ですし……」


そんな私と、この国で王家に続いて序列2位のアロンテン公爵家嫡男のレオネル様が婚姻だなんて………。

無理ですと続けようとした私の口を、黙らすようにレオネル様が片手で塞いだ。


「君は傷モノなどでは無い。

あの卑劣な輩が、君を傷モノになど出来よう筈がない。

あんな婚約はそもそも無効なのだから。

君を傷モノにしたのは、この俺だ。

俺に純潔を奪われ、何度も犯された事を忘れたか………?

いいか?君が傷モノだと言うなら、そうしたのは俺だ、他の男じゃない。

2度とあの男を、君の元婚約者だなどと、言わないように」


射すくめるようにギラリと睨まれて、私は訳も分からずコクコクと頷いた。

何がレオネル様をそんなに怒らせてしまったのか、皆目見当もつかないけれど、理由も無く腹を立てる矮小な方ではない事は明白。

きっと、私が何か無遠慮な事を言ってしまったんだわ………。


そうだわ、レオネル様は初めての行為の責任を取るように仰った。

きっと何か思い入れがあって、大事にされていたのだわ。

それを人命救助の為に失ってしまったのだもの……。

レオネル様のお心の傷は幾許か………。

そのような初めての相手である私に、罪人の元婚約者がいただなどと、考えたくも無いのね。

ああ、私は、どれだけこの方を傷付ければ気が済むのかしら………。


胸が詰まってまたポロポロと涙が溢れた。

レオネル様は慌てたように私の口から手を離し、親指でその涙を拭ってくれた。


「ど、どうした?リゼ?

苦しかったのか?だとしたら、すまない。

いや……まさか、あのエドワルドの事を、君は………」


レオネル様の言葉に、私は瞬時に冷静になって、スンと答えた。


「それだけは、あり得ません」


「あ、ああ、そうか……うむ、当然だな」


エドワルドについて、レオネル様も事情をよく分かってらっしゃるので、直ぐに納得してくれた。


私が心を痛めているのは、貴方の事です、と言いたくても言えなかった。

傷付けられたのは、レオネル様の方なのに、その傷付けた張本人にそんな事を言われても、腹立たしいだけだろうから。


私の招いた自業自得を、レオネル様に背負わせてしまった……。

これからどんな事をしてでも、必ずお返ししなくては。

私の、一生をかけてでも、償うわ、必ず。



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