episode.2

「はぁ、んっ、ふぁっ、んっ、んんっ」


レオネル様が優しく唇を合わせ、そこから舌を差し込んできた。

ゆっくりと歯茎をなぞられる度に、甘い声が漏れる。

その私の声に煽られるように、口づけがどんどんと深くなっていく。

何度も角度を変え、レオネル様の舌が私の舌と絡まり、チュッチュッというリップ音だけが静かな部屋に響いた。


淫獣の呪いのせいで身体が熱い。

レオネル様が欲しくてたまらない。

こんな風に男性を求めた事など、今まで一度も無いのに。

エドワルドが言っていた、獣のように発情する、という意味をやっと理解した。

脳がトロトロに溶けて、下腹部がレオネル様を求め、ズキズキと痛いくらいに疼いている。

こんなはしたない姿を、よりにもよってレオネル様の目の前に晒す事になるだなんて……。

もう、死んだ方がマシだわ。

意識の底でハラハラと流す涙は、表に出す事さえ許されなかった。



「リゼ嬢、苦しそうだ………。

身体が熱いな、これも呪いのせいだろう。

どんどんと獣化が進んでいる。

このままじゃ、君の命が危ない。

すまないが、急がせてもらう。

………我慢してくれ」


レオネル様の言う通り、獣化はどんどんと進んでいた。

この邸に逃げてきた時には既に、頭の上に生えた獣の耳、お尻から生えた獣の尻尾、そして獣のような鋭い爪が生えてきていた。

今は更に、全身が柔らかい毛で包まれていっている。

きっと、獣への変化に身体が耐えられず、命を落とすまで、もう本当に時間はそれほど無いのだと思う。


レオネル様が私のお腹の上に優しく手を置いた。

そこがポゥッと暖かく光り、小さな魔法陣が浮かぶと私のお腹の中にスゥッと消えていった。

師匠が男性の弟子に必ず覚えさせるという、師匠オリジナルの魔法。

破瓜の痛みを消す魔法だと、意識の底で気付いて、私は背中をゾクリと震わせた。


レオネル様は、本当に私と交わるつもりなの?

こんな獣のような醜い姿の私と?

私が迂闊にも呪いをかけられたせいで、レオネル様を獣と交わらせる事になるだなんて。

私は何て事を………。


愕然とする私に、もちろんレオネル様は気付いていない。

表の私はハァハァと熱い息をつき、レオネル様に甘えるような声を上げ、まるでねだるように潤んだ瞳で見上げている。

その、ダラシなくはしたない姿が、獣の姿になっていくよりずっと恥ずかしかった。


レオネル様の指がスルリと下腹部を撫で、足の間に伸びてゆく。

その先に分け入り、指の腹で撫でられると私の身体がビクッと跳ね上がった。


「くぅんっ、ふぅっ、はっ、はっ」


獣のようにねだる、甘い声を上げる私に、レオネル様は優しく頷くと、そこをゆっくりと擦り始める。

そこから溢れ出したものがレオネル様の長い指を濡らしていった。


「淫獣の呪いのせいだとは分かっているが、こんな風に濡れてくれていて良かった。

君に少しでも負担はかけたく無い。

すまないが、中も確かめさせてくれ」


水音を立てレオネル様の指が中に侵入してくる。

抵抗無くすんなりと入った指を、ゆっくりと動かされて、私の身体がビクビクと震えた。


「狭いな………不安はあるが、これだけ濡れていれば……。

本当ならゆっくりとほぐしておきたかったが、今は時間が無い。

リゼ嬢、指を増やすから、力を抜いてくれ」


ハッハッと短い息を吐き、レオネル様の指の動きに夢中になっている私の髪を優しく撫でて、レオネル様は額に口づけながら、中に侵っている指を2本に増やした。


「くぅんっ、んんっ、ふぁっ、きゅうんっ」


指が増えた事を悦ぶように、腰がユラユラと揺れる。

事前にベッドに立てた足が左右に開き、そのレオネル様の指を咥え込もうとそこがキュウキュウと締まる。


「……これなら、何とかなるかもしれない。

いや、急いだ方がいいな。

すまないがリゼ嬢、時間が無い」


ギシッとベッドを軋ませ、レオネル様が私の上に跨った。

いつの間にか寛がせていたトラウザーズから、レオネル様の反り上がったものが覗いていて、獣の私が涎を垂らしながらハッハッと興奮している。


「出来るだけ速やかに事を成す。

君は何もしなくても良い。

辛かったら、目を閉じていなさい」


憐憫を含んだレオネル様の瞳が、私をジッと見つめたまま、その熱いものが当てがわれた。

苦しげな音を立て、その場所が押し広げられていく。

先がなんとか中に納まり、レオネル様はゆっくりゆっくりと、私の中に侵入してきた。


「……くっ、やはり、狭いな………。

痛みは無いはずだが、随分苦しい思いをさせているだろう……。

すまない、リゼ嬢」


少し苦し気なレオネル様の声に、意識の底にいる私はフルフルと頭を振った。

こんな姿の私と、本当に交わろうとして下さっている…….。

止めど無い後悔と共に、胸の奥から溢れそうな程の切なさが込み上げて来た。

こんな状況なのに、ずっとお慕いしてきた方と一つになれる事の喜びが、はしたなくも心を占領していく。

私は何て恥知らずなのかしら。

だけど、トキメキに高鳴る胸を抑える事が出来なかった。



「よし、もう大丈夫そうだ……。

リゼ嬢、少しでも子を成す場所の近くで子種を注ぎたい。

万が一にでも、呪いの解呪に失敗しない為に。

奥まで入れるから、力を抜いておくんだ」


そう言って、レオネル様は私の太腿を持ち上げ、一気に奥まで捩じ込んだ。


「あぅっ、んっ、くぅぅぅんっ」


最奥を穿たれ、下腹部がキュンキュンと疼いて、はしたないものが溢れ出す。

よがるような嬌声だけ、皮肉にもまだ人のものに近く、自分でも聞いた事のないようなその声に、恥ずかしさで耐えられない思いだった。


水音を響かせレオネル様が抽送を始める。

その動きがだんだんと激しさを増す度に、私はハッハッと空気を求めるように短い息を繰り返し、敷布をギュッと握った。

アロンテン家の高級なシーツが私の鋭い爪でズタズタになっていく。

いつもの私ならそんな事、絶対にしないのに。



「はっ、リゼ嬢……これが、君の中………。

いや、駄目だ、早くここに子種を注いで、君の呪いを解かなければいけないのにっ、くそっ、俺は……何をっ」


苦し気なレオネル様の声に反応して、花弁が熱いものを咥え込み、ギュウギュウと締め付けた。


いつも、誰に対しても、一人称を〝私〟で崩さないレオネル様が……今、〝俺〟と仰った….……?


その事に胸がドキドキと高鳴り、肌が上気する。

キュンキュンと下腹部が疼く度に、レオネル様のものに絡みついた。


「くっ、リゼ嬢……そんな風に締めつけたら……。

くそっ、もう我慢出来ない。

すまないが、少し耐えてくれっ」


切なげにそう言って、レオネル様は私の足を肩に担ぐと、腰をガッチリと両手で掴み、最奥を激しく穿ち始める。

弾けるような水音を立て、激しく腰を打ち付けてきた。


「あぅっ、んっ、くぅんっ、はっ」


激しい抽挿にユサユサと揺さぶられながら、私は悲鳴のような嬌声を上げ続けた。

身体の隅々、細胞までレオネル様の激しい責めに喜び、歓喜しているのが分かる。

獣の本能が踊り狂い、羞恥心など微塵も無いまま、ただただレオネル様の動きに夢中で食らいついている。


最奥に当たるくらい、レオネル様の熱いものが激しく中を貫く。

そこをコツコツと刺激される度に、私の身体は仰け反りビクビクと痙攣した。

止まらない抽挿を受け止め続けていると、脳を支配するような耐え切れない快感が下腹部から登ってきて、獣の私はキャウンキャウンと鳴き声を上げ、イヤイヤするように頭を振った。


「ハッ、リゼ嬢、そんな愛らしい声を……。

いや、淫獣の呪いのせいだと分かっている、分かってはいるが………」


レオネル様が背中をゾクリと震わせると、抽挿がより一層激しいものとなり、私の目の前がチカチカと瞬いた。


「キャウンッ!くぅっ、あっ、んっ、んんんっ」


身体が激しく痙攣して目の前が瞬き、私は初めての高みに達した。

身体中が甘く痺れて、脳がトロトロに蕩ける。


「ハァッ、くっ、リゼ嬢、俺も………イクっ!」


激しく最奥に打ち付け、レオネル様の熱い刻印がそこに放たれた。

その瞬間、私の身体から黒い靄がブワッと溢れ出て、直ぐに空中で霧散し、掻き消えた。



「………呪いを、解呪出来たのか……?」


呆然としたレオネル様の呟きを聞きながら、奥底に押し込められていた意識が浮上していくのを感じる。

パチパチと目を瞬き、自分を取り戻すと、身体に感じていた違和感が全て消えていた。


「………レオネル様………」


掠れた声で呼びかけると、レオネル様は私をじっと見つめ、その瞳を嬉しそうに輝かせた。


「リゼ嬢………良かった」


そう言ってギュッとその胸に私を抱きしめ、レオネル様は微かに腕を震わせていた。

なんて優しい方なのだろう。

私なんかの為にその身を犠牲にして、醜い獣と交わって下さるなんて。

そのレオネル様の広いお心のお陰で、私は命を失わずに済んだ。

こんな大恩を、一体どうやってお返ししたら良いのかしら………。


レオネル様の大きな胸に抱き締められながら、私は途方に暮れた。

と、同時に、一糸纏わぬ生まれたままの姿で、ずっとお慕いしてきた方と抱き合っている事に気付き、やはりどうしたら良いのか分からなくてなってしまった。

そんな場合じゃ無いのに、ドキドキと高鳴る胸を止められない。

先程のレオネル様の妖艶な美しさを思い出してしまって、ボッと顔から火を吹いてしまいそうになる。



『リゼ嬢、俺も……』


駄目だ駄目だと思う程に、先程のレオネル様を思い出してしまって、顔の火照りが治らない。


(レオネル様が、俺って………)


どうしても止まらない思考に占拠され、レオネル様がご自分を〝俺〟と言った事を思い出し、胸がはち切れるくらいに苦しくなって、同時に下腹部がキュッと反応してしまった。


レオネル様の身体がビクンと震えて、ゆっくりと起き上がると、赤く染まった顔で、まるで乞うように私の名を呼んだ。


「………リゼ嬢………」


蕩けるような甘い瞳で見つめられ、私の胸がドキンと跳ねた。

呪いが解けて、命が助かった筈なのに、呼吸が苦しい。

ドキドキと早鐘を打つ心臓が、このままでは保たなくなるのでは無いかとさえ思える。


まだ私の中に入ったままだったレオネル様のものが、またムクリと起き上がり、花弁を押し広げその存在を示した事に、私は驚いて目を見開いた。


「あ……の……レオネル、様?

え、えっと……あっ、あぁんっ!」


その時、音を立て腰を打ち付けられて、私は甘い声を上げてしまった。

レオネル様は自分の口を片手で覆い、何か呟いているようだった。


「卑劣な事とは分かっているが……駄目だ、止まらん。

リゼ嬢の中にいると思うと……自分を制御出来ない………」


くぐもった呟きは私の耳にまでは届かなかった。

その間も腰を打ち付けられていて、そもそも耳を澄ます余裕すら無い。

レオネル様は口から手を離すと、少し潤んだ瞳でじっと私を見つめた。


「……その、すまない、リゼ嬢。

こういった行為は初めてで、加減が分からないようだ。

君が良ければ、その、もう少しだけ、いいだろうか?」


頬を染め、少し恥じらうようなその表情とは裏腹に、レオネル様の熱いものは凶暴な激しさで私の中で暴れ回っていた。

良いも何も、この状況で、どうしたら良いかなんて、私には分からない。


「あっ、んっ、レ、レオネル様っ、待って……一度、止まってくださ、あっ、いっ」


嬌声混じりの言葉では、ちゃんと伝わらないのか、レオネル様の動きが止まる事は無かった。

それどころかますます激しさを増して、私の花弁を擦り続ける。


「先程は仕方なく、無理に奥を突いたが、大丈夫だっただろうか?

破瓜の痛みとは別に、そこに痛みは感じなかったか?

淫獣の呪いのせいで君は気持ちよさそうにしてくれていたが、心配なんだ。

呪いが解けた今はどうだ?

どこが気持ちいいのか、教えてもらえないだろうか」


冷静に淡々と疑問を投げかけられても、今の私には正しい受け答えなど出来なかった。

一度動きを止めてもらえましたら、お答え致します、と答えたくても、レオネル様の激しい責苦に言葉がうまく出てこない。


「んっ、わ、分かり、ません、んっ、やっ、んんっ」


よがり声でしか答えられない事に、私は顔を真っ赤に染めた。

快感を感じている事も、出した事もないような自分の甘い声も、全てが恥ずかしくて仕方なかった。


「ああ、そのような可愛い声で喘ぐのだな。

リゼ嬢、もっと知りたい。

君の全てを、俺が暴きたい……」


レオネル様はグイッと私の足を持ち上げると、また腰をガッチリと掴んだ。

先程それで高みに登ったあの感覚が蘇り、私は抵抗するように身を捩ったが、強く掴まれていて微動だに出来ない。


獣の私は、あの絶頂を歓喜して受け入れていたが、今の私に耐えられる自信は無かった。

そもそも高みに登ったばかりの身体は、先程までとは比べようも無いくらいに敏感になっている。

この状態で先ほどのような事をされては、どうなってしまうのか………。


「ヤッ、まって……レオネル様、あっ、ま、まって下さ……やぁっ」


その時、ギリギリまで腰を引いていたレオネル様が、一気に最奥まで剛直にそれを打ち付けた。

激しい水音が響き、私は身体を仰け反らせ、衝撃で口を半開きにしたままピクピクと痙攣した。


「くっ、ギュウギュウに締め付けてくる。

これが良さそうだな、リゼ嬢」


ニヤリと妖しく笑うと、レオネル様は同じ動きを激しく数回繰り返す。


「ひっ、いっ、やっ、んっ、やぁっ」


激しくユサユサと揺られながら、悲鳴のような嬌声を上げる私を眺め、レオネル様はその身体をゾクゾクと震わせた。


「なるほど、君は今何も答えられないらしい。

ならこの身体に聞く方が、効率も良く、早いな」


ガツガツと最奥を穿ちながら、納得したような声でそう言うレオネル様に、私は涙を浮かべながら、頭の中で必死に訴えた。


動きを止めて下されば、お答え出来るかもしれません。

だから、お願いです。

一度、止まって頂けないでしょうか。


と、訴えかける声は、口から漏れた瞬間に次々と嬌声に変わっていき、いつまでもレオネル様の耳には届かないままだった………。



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