第11話 カツサンド 後編

 サイモンの経営する「フライング・ダッチマン」は外国製の商品ばかりを扱う店だ。武器も含めた外国の様々な珍しい商品を扱っている。中には正規ルートでは絶対に手に入らないものもある。


 だいたい一年の半分くらいは休業中の商店だ。取り扱う全てが『王国外』のものであり、その仕入れのため店主も含めた従業員がほとんど外国へでかけているせいだ。


 はきだめ横丁に店を構えているだけあって、「フライング・ダッチマン」もギルド外商店である。国外の商品を扱うこと事態は違法ではないが、この店は輸入を禁じられた商品も仕入れるため商業ギルドを追放されたのだ。


 はきだめ横丁にはギルドを追放された店が他にも多数軒を連ねている。追放者横丁と言ってもいい。

 テンプレの異世界物語と違って、追放される側に非がありすぎる追放者横丁である。


 ちなみに「フライング・ダッチマン」の場合、商品は多くをサイモンが港湾での臨検をすり抜けて荷下ろしするという海賊まがいの行為をして運んでいるため、こちらもシンプルに違法である。また王国外でも強引な仕入れ(※各国海軍をぶっちぎっての航海)をやらかしているので懸賞金付きの国際手配されている。


 はっきり言って命知らずすぎる。魔王討伐に参加していた俺から見ても危険な人生だ。

 ま、それがサイモンの面白いところなんだが。


 ◆◆◆◆


 そんなサイモンの経歴を話すと、ソラちゃんがお盆を抱えておののいていた。


「は、犯罪者……」


「言い方! いや、まあその通りか」


「警察に行ったら普通に捕まるだろうからな」


 俺とサイモンがそう言ってうなずき合う。ソラちゃんがますます引き気味になった。


「な、なんで無事でいられるんですか!?」


「サイモンの場合、命がけの航海で貴重なものを運んできたりするからなあ。これは公表されてないんだが、何年か前国王陛下の病気を治す薬を運んだりしたんだ」


「は? ……国王陛下!!?」


「エリクサーでも治らない原因不明の病気だったんだが、サイモンが華元帝国から運んだ仙丹がよく効いたらしい。仙丹ってのは華元帝国の秘宝でな。まともな外交では絶対手に入らないやつだったんだとさ」


「がっはっは、あの一件がなけりゃあ俺は今頃縛り首だろうな」


 まるで気にしてないように、サイモンが笑う。ちなみに仙丹を国王のもとまで届ける時には、俺もちょっと手助けした。

 ソラちゃんは首を傾げて尋ねる。


「あの、真っ当に商売しようという気持ちはないんですか? 普通の輸入業者とか、商店とか」


「俺のサガなんかな、いい商品を見つけるとどうしても仕入れて売りたくなっちまうんだよ。このすげえ一品をもっといろんなやつに広めたい、ってな。その時違法か合法かは考えなくなっちまう。もちろん人様を害するようなもの運んじゃいねえぜ。そういうのは俺の心に響かないんだ」


「はあ、やっかいなごうを背負っているんですね」


「がっはっはっは、本当にズバズバ言う嬢ちゃんだ。ギルバート、俺は気に入ったぜ!」


「な? いい子だろ」


 サイモンはソラちゃんを気に入るだろうと思っていた。容姿ではなく、性格や気質で。

 俺もサイモンも、正直な人間が好きなのだ。


「よっと、ところで……完成したぞ」


 つまみ用に作ったのはカツサンドだ。意外だが、カツサンドは不思議なくらいウイスキーと合う。

 ランチ用に仕込んでいたカツにはあらかじめソースを絡めて置いておく。キャベツをザクザクと千切りし、パンはトースト。片面に辛子バターを塗ってから、具材を挟んでいった。

 俺とサイモンの分はつまみ用に一口大に切る。ソラちゃんにはお詫びに賄いとしてできたてを出した。


 閉店作業中はブツブツ文句を言ってたソラちゃんだが、カツサンドを食べるとすぐ破顔した。


「うーーーん、おいし〜。ソースがカツにもキャベツにもあってておいしいです。ピリッとした刺激もいい感じ。何より肉汁あふれるカツが……えへへ、たまりませんなあ」


「そりゃ良かった」


「あ、でもでも店の早仕舞いは許してませんからね! 私はもう給仕しませんよ。飲み会は酒飲み二人でやってください!」


「わかってるよ」


 俺はサイモンとともにテーブルに付く。まずは黒ビールから栓を開けた。黒ビールもアルバ王国の名物だ。

 俺もそれに合わせて料理を作っている。


 カツのついでに揚げた白身魚と芋でフィッシュ&チップス、きゅうりのピクルス、チーズ、ナッツなんかを並べている。

 サイモンが舌なめずりしながら言う。


「さすがだなあギル。あっという間にこれだけのつまみを。それにどれもうまそうだ」


「ふっ、当然だろ。さあ飲むとするか!」


「ああ、お互いの無事と友情に乾杯だ!」


「「乾杯!」」


 黒ビールの入ったグラスを合わせ、一気に飲み干す。苦みと香ばしさ、そしてわずかな甘い香りが実にうまい。


「かーっ、染みる!」


「日のあるうちから飲む酒は最高だな!」


 2杯目は俺はウイスキーをハイボール、サイモンはロックで飲み始めた。

 一口飲んで驚く。さすがアルバのピュアモルト、ソーダで割っても特有の力強い香りが立ち上ってきた。


「うまい」


「ああ、最高だ」


 サイモンはウイスキーのロックを梅酒みたいな勢いで飲んでいく。


「おお! このカツサンドとやら初めて食べたがイケるな!」


「だろ、自信作なんだ。もっとも俺が思いついたわけじゃないが」


「ギルは色んな料理を知ってるな。俺も世界中飛び回っているが、こんな料理には出会ったことがないぞ」


 サイモンが嬉しそうにカツサンドを食べる。

 俺達の飲み会を、ソラちゃんはカウンターからどこか複雑な顔で眺めていた。


「………はぁ、ダメなおじさんたち」


「「はっはっはっは」」


 久しぶりの再会に、俺達は夜遅くまで飲み語り合ったのだった。

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