第9話 ショートストーリー「カツカレー」

 いまさらだが、喫茶店シリウスのメニューは俺の気分次第で決まる。今日もそうだった。

 朝からソラちゃんと一緒に開店準備をしていたとき、唐突にある欲求が俺の中で膨れ上がった。


「カツカレーがいたいな」

「は?」


 ソラちゃんが掃除の手を止めて、胡乱うろんげな視線を送ってくる。


「なんですか急に……、かつかれー? それがなんだか知りませんけど、もうすぐ開店なんですから作業してください」

「いいやもう無理だ。我慢できない。今日のランチはカツカレーに変更する」

「は? は? え?」


 ソラちゃんの目が今度こそ驚きに見開かれる。


「え? えええ!? もう表の看板ナポリタンって書いちゃいましたけど……」

「書き直しといてくれ。あと、仕込みするから開店2時間遅らすな」

「はああ!!? ざ、雑すぎるぅ。あんたそれでも店長ですか!」


 ソラちゃんからの文句を聞き流して、俺は厨房へと向かった。


  〜1時間後〜


 あの後しばらくぷりぷりしていたソラちゃんだったが、試食のカツカレーを作ってあげるとたちまち笑顔になってくれた。


「おいし〜〜〜! おいしすぎますよマスター! この料理めっちゃ美味しいです!」

「そりゃよかった」

「カツもカレーもごちそうなのに両方合わせるとか天才の発想です。最高〜!」

「ははははは」


 まあ俺が思いついたわけじゃないんだけどな。誰だか知らんがカツカレーを作ってくれた人に感謝だ。

 俺も自分の分のカツカレーを食う。うん、カツはサクサクだしカレールーは絶品。我ながらいい出来だ。

 食べ終わったソラちゃんが興奮して言う。


「基本メニューに加えましょうよ! これ絶対人気になりますって!」

「やだよめんどくさい。今日は俺が食いたい気分だから作ったんだ」

「ダメだこのマスター、早くなんとかしないと……」


 影をまとった表情で真剣に怖いことをつぶやくソラちゃん。

 だってカレー仕込んでカツも揚げてなんてのを毎日やるのはめんどくさい。こういうのは気が向いたとき作るので十分だ。


「まああれだ、希少メニューのほうが価値が上がるだろ?」

「も〜〜、そんなんじゃほんとにお店つぶれちゃいますよ!」


 ジト目で睨まれてもなんのその。俺は俺のやりたいように経営するのだ。

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