3章 裏⑤

「なるほど。それは…」


 エリックはミレイが運んできたコーヒーに口をつける。ノエルもつられて自分のコーヒーを一口。


「余計なことをしてくれたものだ」


 エリックはノエルにそう言いながら笑みを見せる。


 余計、と言ったのは紛れもない本心だが迷惑、というほどでもない。ゴードンとコンスルの仲を改善しようと思っているエリックにとってノイズでしかない情報ではあったが二人のすれ違いの根源に触れていると思えたからだ。


 エリックはノエルに渡された短編の下に書かれた文章を捲っていく。ノエルが四つ折りにして持っていたせいで開いて伸ばしても半分程は戻ってしまうその紙を開き直して、一つに目を止める。


「けれどキミが暴いたこの、短編の裏とでも呼べばいいのか、文章を読むとゴードン氏とコンスルの仲違いの理由がわかった気がするよ」


「やはり仲はあまりよくなかったのか」


 エリックは頷いて


「2人はよく喧嘩していたよ。傍から見ていると不器用な2人の行き違いにしか見えないのだけど。そうか、ゴードン氏はコンスルに自分の妻の面影を見ていたのか。それでゴードン氏はいつもあんな態度をとっていたのか」


と一人続けた。ゴードンの妻が亡くなった事故、それと短編の裏の文、ノエルが見つけ出したこれらの秘密はエリックの中でもどかしく思えていたゴードンとコンスルの関係性に一本の筋を通した気がした。


 自分の妻の面影を見て避けてしまうゴードン、向き合うことを避けるゴードンに苛立ちを募らせ反発するコンスル、2人はきっとこういう関係性だったのだ。


 そして、ゴードンの遺した愛しているというコンスルへの言葉は上っ面だけの言葉ではなく、紛れもない本心であったと確信できた。


「ノエル、ありがとう。キミはいつも期待以上の結果を見せてくれる。仕事を降りると言う話だったが報酬は払わせてくれ。それも…」


 エリックはノエルが眉間に皺を寄せ、難しい顔をしているのに気がついた。どうした?と尋ねる前にノエルは


「ここからは私の勝手な想像なのだが」


と言って話を続けようとする。エリックはそれを止めようとはしなかった。

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