幕間
ゴードンの遺した魔術を発動させ、真の遺言を読んだコンスルは人が変わったかのように魔術や父親について語った。いつものどこか貼り付けたような笑みではなく、本当に楽しそうに話していた。
その日の夜は宴会が催され、エリックとノエルはもう一晩世話になった。そして次の日の昼前、エリック達は帰路につく。
「エリック、君には本当に助けられた。ありがとう」
コンスルはエリックと固く握手を交わす。
「困ったことがあったらいつでも言って欲しい。必ず力になるよ」
そう言うと二人は抱き合った。
「ノエル、君にも助けられた。本当にありがとう」
「いえ、私は何もできませんでしたので…」
「何を言うんだ。君がきっかけで外法に気づけたんじゃないか」
コンスルは手を差し出す。
「そう言っていただけると私も色々と考えた甲斐があります」
ノエルはコンスルの手を取って握手を交わした。
「君も何か困った事があったら何でも言って欲しい」
「はい、その時はよろしくお願いします」
「コンスル、彼は実は探偵なんだ。君も困ったらノエルを頼ってやってくれ」
「探偵?通りで鋭い考察をするわけだ。素晴らしい名探偵振りだったよノエル」
楽しそうに笑うコンスルに対し、苦笑いを浮かべるノエル。
「私たちはそろそろ行くよ」
エリックがそう言うと
「そうだな。また遊びに来てくれ」
とコンスルはまた笑顔を見せる。随分といい顔をするようになった。
エリックとノエルは馬車に乗り込む。ゆっくりと馬車は走り始める。ガタガタと揺れ速度は上がっていく。そしてコンスルの屋敷が見えなくなったあたりでエリックが口を開いた。
「ノエル、聞かせてくれないか?」
馬車の車輪の音が響く中、ノエルに問いかける。
「何をだ?」
窓の外を見たまま応えるノエル。
「決まっているだろう?なぜ途中でこの依頼を降りようとしたんだ?」
ノエルは黙ったまま外を眺め続けている。
「あの短編に何か見つけたんだろう?違うか?」
ノエルが驚いた顔でエリックの方を振り返った。
「何故そう思う」
真剣に問い返すノエルにエリックは小さく笑う。
「あの日、キミは夜通し短編を考察していたんだろう?だから着替えもせずに寝ていた。違うか?」
ノエルの眉間の皺が深くなっていく。そして観念したようなため息をついた。
「聞かなくてもいいと思うけど」
少し不機嫌そうに。
「聞かれると困る話なのか?」
そう尋ねるとしばらく黙ってから
「話していいか迷ってる」
とノエルは遠くを見つめながら。
「聞かせなくていいと思っている。話さない方がいいと思ってる。でも聞いて欲しいとも思ってる。話すべきだとも思ってる」
「話してみるといい。コンスルかあの魔術書に関係があることだろう?そうだ!食事を奢ると言う話だった。これからどこかに行かないか?」
「それは構わないが…」
と言いつつも難色を示すノエル。
「そんなに話づらいことなのか?」
視線を落とし、ノエルは頭を捻る。
「なら聞いてくれ」
短く言った。エリックは窓を開けて御者の男に行き先の変更を伝える。
「聞いたあとどうするかはお前の判断に任せるよ」
ノエルの言葉をこの時のエリックはまだ、さほど気に留めていなかった。
「知り合いの店に行こう。いい店なんだ」
◇◇◇
馬車の速度が緩む。エリックが再び窓を開け御者の男に詳しい店の位置を説明する。
再び馬車は速度を上げ、目的の店の前で停車する。
「さあ行こう」
エリックが先に馬車を降り、店の中に入っていく。それにノエルものそりと続く。
「ミレイ!いるかい?」
店の奥から物音がして、バタバタと足音が近づいてくる。
「すみません、まだ…ってエリック!」
奥から出てきた女性が駆け寄ってくる。
「どうしたの?急に」
「久しぶりにここの料理が食べたくなってね。まだ開店前だったかな?」
「ううん、大丈夫よ。でもすぐには料理が出せなくて…」
女性は前髪を整えながら俯き気味に話すその頬は薄く紅潮している。
「ならちょうどいい。少し仕事の話がしたかったんだ。食事はその後でいい。角の席に座っても?」
「もちろん!」
エリックはノエルに合図して店の奥の角の席へ向かう。2人掛けのソファが向かい合う4人席だ。
「あ、飲み物は出せるわ!」
「なら…コーヒーでいいか?」
ノエルは頷く。
「コーヒーを2つ。食事は君に任せるよ。何でも美味しいからね」
わかった!と嬉しそうに下がっていく女性。
「さ、早速聞かせてくれキミが見つけたものを」
席に座るなりすぐにエリックは切り出した。ノエルは髪をかきあげ、眼鏡を外してテーブルの上に置いて
「どうやって話そうかな…」
と呟く。
「ああそうだ。一応答えておこう」
何にだ、と思いながらもエリックは口にしない。
「依頼を降りようとしたのは…余計なことをしているとわかっていたからだ」
それ言ってノエルは語り始めた。
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