2章 表16
一瞬の静寂。変化はエリックの手の中に訪れた。
エリックが持っていたゴードンの遺した魔術書がふわりと宙に浮き、パラパラとページが捲れていく。そして蟻のように行列を作って文字が魔術書から飛び出していく。
一列、また一列と飛び出し、文字の行列はエリック達の周りでぐるぐると渦を巻く。
「このためにわざわざ魔術で文字を書いていたのか…」
文字列はエリック達の頭上に集まり球となる。そして再び行列を作って魔術書に戻っていく。するすると書の中に吸い込まれ、最後にするりと尻尾が書に収まる。
パタンと魔術書は閉じられ地面に落ちる。拾い上げようと身を屈めたエリックを
「まだですぞ。エリック殿」
とゼオルが制する。見上げると空にはまだいくつもの文字がふよふよと浮いていた。文字はゆっくりと魔術書の落ちた地面の上に集まってくる。
そして文字は宙に並んでいく。エリックは、コンスル、と呼んで文章の正面を譲る。
最後の一文字が末尾に収まり、それは完成した。
〜〜〜〜〜
我が息子コンスルへ
お前はさぞ私を恨んでいることだろう。
それも仕方のないこと、何もしてやれなくてすまなかった。
あんなにも小さかったお前はいつの間にか人間としても魔術師としても私より立派になっていた。
私はもういない。お前はお前の信じた道を進め。
コンスル、お前を愛している。
それと手を貸してくれたコンスルの友人達、本当にありがとう。
そして真実を知った君たち、勝手を言うようだがいつか息子が壁にぶつかる時、支えてやって欲しい。
全ては私に責があること、コンスルをどうか頼む。
〜〜〜〜〜
「なんだよ…最後の最後に…。俺は…親父に認められたかったんだ…。いつもいつも顰めっ面で否定ばかりで…」
コンスルはボロボロと涙を流していた。堪えようとしているようだがそれでも溢れてくる。
言葉は無粋だ。エリックはコンスルの側に寄る。
魔術書の表紙が再び開く。宙に浮いた文字は崩れるようにして魔術書に吸い込まれていき、最初の真っ白なページに収まっていく。
また、パタリと閉じた魔術書をエリックが拾い上げてコンスルに手渡す。受け取ったコンスルは魔術書を抱えて崩れ落ちた。
「あああああああああああ」
慟哭。コンスルは大空へ叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます