2章 表12

 誰かが言うでもなく休憩しようとなった。机を囲み、全員が顰めっ面をしながら席に座っていた。


 飲み物をもらってきます、とミークが席を立つ。残された者は不発に終わった二つ目の魔術と何の手がかりも得られていない3の短編に頭を悩ませる。


「ひょっとすると場所が悪かったのでしょうか。2の短編は舞台が森です。森で魔術を使用すれば発動のではないでしょうか」


 イヴァンが意見を出す。なるほど、と納得の声が上がる。その中でエリックは腑に落ちずにいた。森、と言ったが森とはどういう場所を指すのか。木や植物がある場所と言うならこの庭で不発に終わるのはおかしいだろう。もっとたくさんの木がある場所、と言うならこの庭は当てはまらない。魔術が不発だったのも説明はつく、説明はつくがやはり木に作用する魔術なら不発というのは納得できない。それに木がたくさんある場所、というのをどう判別するのかと色々と疑問が出てくる。


 この話をしようかと思ったが他に妙案はない。試してみるのも悪くはないかとエリックは黙っておくことにした。


「なら今度森でやってみようか」


とコンスル。続けて


「3の短編についてはどう思う?私はいい案が浮かばなくてね」


とイヴァンに尋ねる。


「それは…私もこれだと思えるものがなくて…」


 やはりか、とコンスルが呟く。そこに丁度ミークがニコルと共に戻ってきた。


「ミーク、君は3の短編をどう思う?」


 聞かれたミークは座りながら、そうですねぇ、と言って話し始めた。


「私が気になったのは3人の男がそれぞれ別々の道のりで向かったところでしょうか。この3つのの道のりに外法の手段が隠されているのではと睨んでいます。と言っても私もまだ見つけられていませんが」


「ほう、良さそうな意見が出ましたな。考えてみましょう」


 そうゼオルが言ったことをきっかけに皆は3の短編に集中する。しかし、やはりというべきか全員が納得できるような意見は出ず、ポツポツとこじつけのようなものばかりが出てきた。実のならない議論を続けて日が暮れる。ニコルの


「夕食の準備ができました。そろそろ夕食にしませんか?」


という言葉で全員が昼食も食べずに議論に熱中していたことに気がついた。


「みんなすまないね。昼食も食べずに付き合わせてしまって」


「はっはっは!おきになさらず!魔術に熱中できるのは魔術師の本望ですから」


 豪快に笑うゼオルに皆が、そうですよ、と同意して広間に向かって行く。


 道中、ニコルがスッとエリックに近づき、話しかけてきた。


「エリック。ノエルさんを呼んできてくれないか?」


「構わないが…どこにいるんだ?」


「自室だよ。2階の」


と言ったニコルはどこか呆れた様子だった。


「わかった。呼んでこよう」


 エリックは2階に上がりノエルの部屋の扉を叩く。


「ノエル、夕食の準備ができたそうだ。出てこられるか?」


 少し間があって


「すぐ行く」


と声がした。ガタガタと音がして部屋の扉が開く。エリックの顔を見るなり


「すまない。集中していて昼食を食べに行くのを忘れてしまった」


とバツの悪そうな顔をしている。それを聞いて思わずエリックの口元がほころんだ。


「そういうことだったのか。どうりで…。気にしなくていい。俺たちも昼食を忘れて魔術に熱中していたよ」


 そうなのか、と呟いて


「ニコルさんに悪いことをしたな」


と言うノエル。


「魔術師にはよくあることさ。ニコルもわかってるだろうし気にすることはない。それより…」


 エリックはちらりとノエルを見た。それを合図にして広間に向けて歩き始める。


「部屋で何をしていたんだ?昼食を忘れるほど集中して」


「3つの短編について考えてた。魔術の実験には役に立てないからな」


 ふうん、と言ってから


「それで、何か気づいかのか?」


とエリックは尋ねる。ノエルは親指で頬を撫でながら


「決定的なものは何も」


と答えた。


「3の短編だろう?こっちも同じだ」


とエリックは肩を竦める。


「手強いな。3つ目の短編は」


 ノエルは顎を撫でる。


「確証はないがおそらく、多少強引に解釈する必要があると思う」


「それはまたどうして?」


「聞いた限りの想像だが、外法というのは不完全な魔術を無理矢理に発動させる手段だろう?ゴードン氏が不完全な魔術を生み出し、それを発動させるための外法の手順を短編に隠して記したという前提で話を進めているが」


「外法の手順が隠されている、で確定だよ。1つ目と2つ目の魔術は発動させられた」


とエリックが口を挟んだ。


「そうなのか、なら本当にあとは3の短編だけか。それで話を戻すが不完全な魔術を生み出した時にはまだどんな外法を使うのかゴードン氏にもわからなかったのではと思ってる。コンスルさんに遺した魔術書と短編を創り出すまでを段階で想像すると遺したい魔術を決め、それを不完全な形で生み出す。その不完全な魔術を発動させられる外法を試行錯誤して探し出し、その外法を隠すための短い文章を考えて書くという流れだったのではと思ってる」


 そこまでノエルが話すとエリックが、話が見えた、と言った。


「魔術がキミの言うコンスルへ遺したメッセージの一部なら書き残す魔術は変えられない。だから使う外法がどんなものでも何とか考えて文章にするしかない。ゴードン氏は作家の類ではないからそれほど上手く隠せていないかもしれない、という考察か」


 ノエルが大きく頷き肯定する。


「納得はできる考察だが確証がなければただの想像。皆には言わずに頭の片隅に置いておくくらいが丁度良さそうだ」


 私もそう思う、と同意するノエル。話終えた所で2人は広間の前に到着する。


「ひとまずは腹ごしらえだ。急に腹が減ってきたよ」


 エリックは笑いながら広間の扉を開けた。


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