2章 表⑩
「おお!」
歓声が聞こえてエリックとゼオルは談笑を止める。コンスルが実験を成功させたのだろう。
「成功されました?」
ゼオルの問いに、まあ、と歯切れ悪く答えるコンスル。
「魔法陣の大きさを変えるのはうまくいったのだが魔術は発動しなかった」
「魔法陣の大きさをもう一度変えて元に戻す必要があるのではないですか?次は上手くいくでしょう」
肩を落とすコンスルにイヴァンがそう声をかけた。
「それとタイミングもあります。適切なタイミングでなければ魔術は上手く発動しませんよ」
「外法というのは随分不毛だな」
と不満げなコンスル。
「廃れたものですからな。そう思うのも無理はないでしょう。ではタイミングを探る手掛かりをお教えしましょう。まずは一度魔術を行使してみてください」
ゼオルの助言通りコンスルは再び魔法陣を展開する。
「そのまま何もせず発動させようとしてください」
言われるがままコンスルは魔術を発動させようとする。すると途中で引っ掛かったように魔術が途中で止まり、そのまま消える。
「そのあたりが怪しいですな。止まったところの少し手前くらいから魔法陣を小さくして見てください」
「わかった」
再びコンスルは魔法陣を展開する。ゼオルに言われた通りに発動が止まるあたりの手前から魔法陣を小さくする。しかし魔術は同じように止まる。
「少しずつタイミングをずらしてみてくだされ」
コンスルはまた魔法陣を展開する。今度はほんの少し魔法陣を小さくするタイミングを遅らせて。それでも同じように止まる。
「もう一度」
皆の視線を受けながら何度目かの挑戦。ついに魔術は止まらずに発動を続ける。
「やった!」
「まだです!そのまま続けて!」
一瞬の安堵をゼオルは嗜める。
「わかった」
気を引き締めたコンスルは魔術集中し直す。
魔法陣が完成する直前、また魔術は止まる。
「止まった…」
静まりかえる中ゼオルは1人笑う。
「ついに完成が見えましたな」
「二度目に止まったところで魔法陣の大きさを元に戻せば完成かな?」
「その通りでしょう。もう何度かで完成するでしょうな」
会話を聞いていたコンスルはすぐさま魔法陣を展開する。ゼオルの予見通り、3度目の実験でついに魔術は発動した。
「おぉ…」
誰もが声を揃えた。発動した魔法陣は淡く光る。
一体何が起きるのか、と全員が固唾を飲んで見守る。
(ん?なんだ?)
ひやりとしたものがエリックの頬に触れた。手で頬を拭うと濡れていた。
「これは…」
あたりには数多の水の玉が浮いていた。
「幻想的だな」
宙に浮く水の玉に触れながらエリックは呟いた。ふよふよと宙に浮いて動く水の玉をしばらく眺めていた。
そして最後に水の玉たちは地面に吸い込まれるように消えていった。
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