2章 表⑨
ニコルに起こされ着替えを済ます。向かいの部屋のノエルを呼んで一緒に一階へ向かう。
ニコル曰く、コンスル、イヴァン、ミークの3人はすでに起床し庭で魔術の実験を始めているらしい。朝食も庭に準備してくれるというので直接庭へと向かう。
庭には聞いていた通り、すでに3人が魔術の実験を始めていた。熱中する3人に挨拶をして2人は空いている席に座る。
程なくしてニコルがサンドイッチとオレンジジュースを運んでくる。エリックたちはそれを食べながら3人が試行錯誤する姿を眺めていた。
「おお!やっておりますな!」
ゼオルもやってきて全員が揃ったところでコンスルが話をし始める。
「今日も来てくれてありがとう。エリックもノエルも。先に1の短編に隠されていた外法を試しているんだが中々うまくいかなくてね。試行錯誤中なんだ」
ゼオルは何度か大きく頷いて
「そうでした、そうでした。外法をものにするのは私も苦労しましたなあ」
と懐かしそうに。
「コンスル殿ならすぐに出来ますでしょう。一度私がやって見せましょう」
そう言ってゼオルは少し離れて円形の魔法陣を展開する。
「途中で魔法陣の大きさを変えるんでしたな」
大きめに展開された魔法陣の円をぐっと縮める。文字列は蟠を巻いた蛇のようにズルズルと移動し、小さくなった魔法陣に収まった。
「まあこんなところでしょう」
ゼオルは魔法陣を霧散させコンスルに向かって笑いかける。
「参考になった。やってみよう」
真剣な顔つきになったコンスルは再び魔術の実験に戻っていく。イヴァンも同じように実験を繰り返しミークは2人を観察していた。
「エリック殿も挑戦してみませんか?」
「そうだな…やってみようかな」
ゼオルに促されエリックも立ち上がる。コンスル達からも離れた場所で適当な魔術の魔法陣を展開する。
それから魔術の途中で魔法陣の円を小さくしようとする。
(む?)
円を小さくする途中、魔法陣はバラバラと崩壊した。
「失敗か」
そう呟くエリック。
「うまくいきませんかね」
「そのようだ。適当な魔術を使ったのがよくなかったかな」
「はっはっ!どうでしょうな。私も適当な魔術で実演しましたがそうはなりませんでしたぞ。霧のように消えてはしまいましたが」
「む、そうなのか」
エリックは再び魔法陣を展開する。また円を小さくし始めたあたりで崩壊する。それを何度か繰り返している間にエリックも魔術の実験にのめり込んでいた。
10を超え、20には満たないほどの実験でエリックはついに崩壊することなく魔法陣を小さくすることに成功した。
声は上げずとも喜びからすぐにゼオルの方を見た。しかし、ゼオルの視線はコンスルに注がれていた。
コンスルは額に汗を滲ませ実験を続けていた。
(コンスルはまだ成功していないのか…)
エリックは静かにゼオルの隣の席に座った。その席に座ったのはただなんとなくだった。
「お見事でしたな、エリック殿。流石は一等魔術師と言ったところでしょうか」
「そうでもない。随分と手こずってしまったよ」
ガハハ、と豪快に笑うゼオル。
「あれで手こずりましたか。普通なら今日中に成功できるかどうかと言ったところでしょう」
「ならば謙遜はしないでおきましょう」
そう言うと2人は笑う。
「そうすると、コンスルはどうかな?」
エリックが尋ねるとゼオルは、ふーむ、と言って顎をさする。
「どうでしょうな。魔術師としての筋はゴードン殿以上であるとは思いますが」
そうか、と呟いてエリックはコンスルの方を見た。コンスルはイヴァンとミークと相談しながら実験を繰り返している。その姿をゼオルとエリックの2人は黙って眺めていた。
日も高くなってきた。小腹が空いたエリックは朝食の残りのサンドイッチに手を伸ばす。パンの表面は乾いて、中のレタスも少し萎びている。
気にせずエリックはそのサンドイッチを口へ運ぶ。やはり味は落ちていない。
ゼオルも最後の一つに手を伸ばす。エリックは皿ごと持ってゼオルへ差し出す。
朝食の残りですけど、と言うとゼオルは、痛んでいなければ構いませんよ、と言って笑う。
私もです、と返すエリック。
この時のエリックはノエルの姿が見えないことを気に留めなかった。
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