2章 表⑦
3つの短編には外法と呼ばれる魔術の発動手順が隠されている。その前提で話を進めることとなった。1の短編についてはあれこれ意見が出たが結局、魔術の発動途中で円形の魔法陣の円を小さくしその後に戻す、と言うことでまとまった。
実際にやってみようという話になったがその時ちょうど小雨が降り始めた。魔術書を濡らすわけにはいかないので庭に出られず2、3の短編の考察を続けることになった。
「エリック、この2の短編はどうだ?何か気がついたことはあるか?」
コンスルはエリックに期待の視線を向ける。
「そうだな…」
エリックは人差し指で額を叩きながら頭を回転させる。
2の短編は1の短編とは違って物語性が強くなる。1の短編の時のようにそれらしい文を抜き出して解釈して外法を見つけ出す、と言う方法で考えようにもそれらしい文が見当たらない。物語の意図を汲もうにも解釈が難しく、こじつけのようなものしか出てこない。どうしたものかとエリックはノエルに視線を送る。
ノエルは小さく頷く。
「ではエリックに代わって私から。2の短編で気になるところは『向きを変える』と言うところでしょうか。私は魔術師ではないので素人の発想ですが例えば円形の魔法陣の文字列を逆向きに書く、と言うのはどうでしょうか?」
ほう、と誰かが呟いて、それから魔術師たちは黙って考えを巡らせ始める。
「ゼオル殿、そういった外法はあるのか?」
コンスルに尋ねられゼオルは、そうですなあ、と言いながら腕を組んで険しい表情をする。少し間があってゼオルは口を開く。
「思い出せませんな。なんせ随分と昔のことですから。それに私も全ての手法を知っているわけではありませんから」
と困ったように話す。
「ですが私が知らずとも考察を進めていけば正解には辿り着けるでしょう!」
ニカっと笑うゼオルに対してコンスルは顔を曇らせる。
「ではこういうのはどうでしょう」
イヴァンが話し始めた。
「兎に注目してみると向きを変えた兎はその後すぐに死んでしまいます。この死というものを終わりと捉えるのです。兎が向きを変えてその後すぐに死ぬ、というのを魔術の書き込みの向きを変えてその後すぐに書き込みを終えると言い換えるのです。例えばですが円術式の最後の一重だけを逆に書き込むというのはどうでしょう」
「いい考えなのではないですか」
ゼオルはノエルの顔を見る。
「私もそう思います」
とノエルも同意を返した。
「ではひとまずその解釈で進めよう」
コンスルは頷く。
「しかし…」
口を挟んだのはイヴァンだった。
「気になるのは後半部分が全て意味を持たない文章となってしまう点です。どうしても私は他に何かあるのでは、と勘繰ってしまいます」
「私もそれは気になっていたところです。まだ他の手順が隠されていると思います」
同意を示したのはエリックだった。
イヴァンとエリックの提案もあり、2の短編の考察を続けたがこれと言った意見は出てこなかった。誰かが声をあげてはみるが議論は転がらずに消えていく。3の短編の考察も始めたが全員が頭を悩ませたまま夕食の時間を迎え、その日の話し合いは終わりとなった。
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