2章 表⑥
「では次は私から。私たちは短編の方を読んでいたのだが…その前に三つの短編小説の雛鳥で始まる短編を『1の短編』、狼で始まる『2の短編』、秘境で始まる短編を『3の短編』と統一で呼ぶようにしてもいいかな?」
構わないよ、とコンスル。
「まず見て欲しいのは1の短編の円について書かれたところだ。円を描く、円が小さくなる、円を元に戻す、とあるのだがこの円というのが円術式の魔術を表現しているのではと考えたのだが…どうだろう?」
エリックとノエルを除く全員が1の短編が書かれた紙を睨む。しばらくの静寂のあと、イヴァンが行儀良く手を挙げてから話し始めた。
「1行目だけでなく2行目にも円を描くという表現があります。二つ魔法陣を使用するのでしょうか?そう考えると円が小さくなるという表現は一つは小さい魔法陣を使うと解釈できますが…私は一つの魔術で魔法陣を二つ使うものを知りません。ゴードン様が遺された3つの魔術のうちのどれか二つについて書かれているのであれば…手掛かりがなさすぎるように思います」
「文章として読むと、雛鳥が薔薇の周りに円を描く、と書かれているのだから円は一つだと思ってます。ただそうなると円が小さくなってそれからもとに戻るというところの解釈が難しくなりますが」
「ありますぞ」
自信たっぷりで言い切ったのはゼオルだった。
「魔法陣の大きさを魔術を行使する途中で変えるという荒技。外法と呼ばれるものです」
外法、と呟いたコンスルにゼオルは大きく頷く。
「これまた昔の話。私が魔術師になるより前の時代、その頃は魔術の研究がそれほど進んでおりませんので発動しない魔術がたくさんありました。それを発動させるために考案されたのが今では外法と呼ばれる手段の数々です。魔術の途中に魔法陣の大きさを変えるのはその一つです」
「父はそれをこの短編に隠していた、と」
コンスルが鋭い目つきになった。
「まだ可能性の段階ですな。どうでしょう?他の可能性を追いつつも外法が隠されているとして進めませんか?」
ゼオルが全員の顔を見渡して問いかける。
「失礼」
小さく手を挙げたのは魔学者ミークだった。
「ゼオル殿はこの短編から何か見つけられましたか?」
眉を顰め、わずかに不快感を露わにするゼオル。知ってか知らずかミークは話を続ける。
「恥ずかしながら我々はこの短編から何も手掛かりを掴むことができませんでした。もしゼオル殿が有力な説に辿り着いていないのであれば外法が隠されていることに絞って考えませんか?」
ふむ、と言ってからゼオルは
「私も構いませんぞ。隠されているのが外法とは中々面白いではないか」
と言いながら豪快に笑う。
「私は反対です」
意を唱えたのはミークの隣に座るイヴァン。
「1の短編だけ見ても円以外について書かれた部分の方が多いくらいです。エリック殿の意見を否定するまではいきませんが外法だけに限定するのは
「その時はその時だ。あれこれ考えるよりも一つに絞って深く考えた方がいい。それでダメなら他の可能性を考えた方が効率がいいだろ」
イヴァンの話を遮って否定したのはミーク。しかし、と言って食い下がろうとするイヴァン。
「私は構わないよ」
ミークの視線にコンスルが応える。それなら、とイヴァンが引いたことにより言い争いは終わる。
「外法、と言うのは私も知らなかったけれどそういうものが隠されていると思って短編を読むとそれらしいものが見える様に思える。さすがエリックとその友人だ」
コンスルは嬉しそうに笑う。
「なら決まりですな」
パンとゼオルが一つ手を叩いて。
「短編から外法を探しましょうか」
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