2章 表④

 エリックの部屋に来たノエルと2人で机に向かう。椅子は部屋に一つしかなかったのでノエルの部屋から持って来て並べた。机の上に並んだ短編小説の書かれた3枚の紙を目の前にしてエリックは


「封筒に入っていた順に左から並べてる」


と説明した。エリックとノエルはそれぞれ短編小説の書かれた紙を順番を変えないように注意しながら手に取って読み始める。どれも短い物で2人はすぐに読み終える。


「これはなんと言うか…」


 口を開いたのはエリックだった。それを合図にしたように2人は同じ様に腕を組んで椅子の背もたれに体重をかけた。ギィという椅子が軋む音が二つ、重なって響く。


「小説と言うには短いね。詩とも違うとも思うけど。俺はその辺詳しくないけれどコンスルが小説もどきと言うのもわかるな」


 肩を竦めるエリック。隣でノエルは黙って考え込んでいた。しばらくして、そもそもだが、とノエルが口を開く。


「この短編小説というのは魔術書を解読する鍵なのだろう?短編だけを読んでもどうにもならないんじゃないか?その魔術書がないと」


 聞いていたエリックは、うーん、と唸りながら顎下から喉を撫でる。


「どうかな。ゴードン氏の遺書から考察すれば魔術師でない者も短編を読み解くことは出来るんだと思う。魔術書とともに読まなければならないなら魔術師以外には読み解けなくなってしまうだろう?」


「魔術師もそうでないものも、か」


 ゴードンの遺言の一部を呟いたノエルに、そうだ、とエリックは頷く。


「それとも広間に戻るか?広間で話し合うなら魔術書も見せてもらえるだろうけど。コンスルたちの前でもキミが忌憚のない意見を聞かせてくれるならそれで構わない」


 エリックの問いにノエルは沈黙で答える。


「ならひとまず出来ることをやろうじゃないか」


 そう言ってエリックは笑う。納得しきれない、そんな表情でノエルは短編に視線を戻す。


「残された3つの魔術と3つの短編小説、一つでも読み解ければ魔術のどれかは行使出来るはずさ」


 するとノエルの眉間の皺が深くなる。


「魔術って3つもあるのか?」


「ああ、3つの魔術が魔術書に書かれている。言ってなかったか?」


「一冊の魔術書としか聞いた覚えがない」


「そうか、すまなかった。言ったつもりでいた」


「どんな魔術が書かれていたんだ?」


「それはわからない。使ってみないと」


 そうか、と言ってノエルは左の短編を手に取って再び読み始める。エリックも考察を始めようと真ん中の短編に手を伸ばす。


「この、円を描くってのは魔術の円形の魔法陣だったりするんだろうか?」


 エリックはノエル手から短編を受け取る。


「円術式か。なるほど…」


 今度はエリックが短編を睨みつけて考え込む。


「円を描く。円が小さくなる。円を元に戻す。円に注目すると確かに何か見えそうだが…」


「やっぱり安直すぎるか?」


「いや…」


 それからエリックは珍しく何も言わずに考え込んでいた。

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