3つの短編小説
1つ目
雛鳥はぐるぐると円を描く。
可愛らしく薔薇の周りに円を描く。
ふと目を離した瞬間に雛鳥は空へと飛び立とうとする。
当然、飛べずに雛は地に落ちる。
それと同時に円はぐっと小さくなる。
すぐに雛鳥を掬い上げる。
それから円を元に戻す。
そうすればきっと薔薇は折れずに済んだだろう。
◇
2つ目
狼は森を歩いていた。それだけだった。そこに茂みから一羽の兎が現れた。兎は狼を見ると身体を強張らせその場に立ち尽くす。
空腹でもなかった狼はその兎を一瞥し、通り過ぎようと踏み出した。
脱兎。弾かれたように兎は向きを変え逃げ出した。力強く地面を蹴って全速力で走っていく。
それからすぐの出来事だった。兎はそのままの勢いで木の幹に激突し、そのまま死んだ。
その場で食ってやろうかとも思ったが死んだ兎を哀れに思って食わずにおいた。
森は狼を責め立てた。兎を面白半分に殺したと。
当然、狼は反論した。あれは事故だったと。しかし、誰も狼の言葉に耳を貸すことなどするはずもない。
結局、森を追い出されることになった狼は一匹になって物思いに耽る。
一体誰が悪であったのか、と。
◇
3つ目
秘境、どんな願いも叶えてくれるという女神がいるらしい。
青い髪の男は海を渡り、船の上で干からびそうになりながらも秘境に辿り着き、女神に「大金持ちにしてくれ」と願った。
赤い髪の男は山を越え、遭難しそうになりながらも秘境に辿り着き、女神に「王様にしてくれ」と願った。
黄の髪の男は崖を登り、何度も転落しそうになりながらも秘境に辿り着き、女神に「息子の病気を治してくれ」と願った。
青い髪の男は財宝に押し潰されて死んだ。
赤い髪の男は孤島で1人、死んだ。
黄の髪の男は息子と同じ病気で死んだ。息子はそれを悲しんだ。
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