2章 表②
ニコルの後をついてコンスルの元に向かう。建物に入って左に進み始めたところでエリックには行き先の予想がついた。突き当たりまで進み、右に折れる。そのまま奥まで進んで突き当たりの部屋。エリックの予想通り、広間に案内された。
ニコルが扉をノックし、中に入る。
「お客様が到着しました」
そう言ったニコルに続いてエリックたちも広間に入る。
広間に入り、一番に目に入るのは部屋の右側の大きな窓とそこから見える庭。庭はゴードン氏が手入れをしていた頃と変わらず綺麗に整えられているようだ。
広間内には正方形のテーブルが一つ、そのテーブルを挟んで対面するように2人の男性が座っている。手前の席の男性はこちらに振り向き、奥の男性は立ち上がってエリックたちを出迎えに来た。
「やあ、コンスル。遅くなって悪かったね」
出迎えに来た男性、コンスルにエリックは挨拶をする。コンスルは色白の痩せた男だ。黒いローブを羽織っていて余計に肌が白く見える。
「気にしないでくれ、と言っても他の友人たちは先に解読を始めてしまっているけどね」
「む、それは悪かった」
「謝らないでくれ皆がせっかちなだけだ。それよりそちらの方は?」
「私の友人のノエルだ。魔術師ではないけど私の手伝いをしてもらおうと思ってね」
コンスルは少し驚いたような表情をしてからノエルの方を向いて
「私はコンスルという者だ。一応この屋敷の主ということになる。ノエル、と呼んでいいかな?」
尋ねた。構いませんよ、とノエルはエリックには見せることのないよそ行きの笑顔で答える。
「ありがとう、ノエル。君にも期待している」
そう言ってコンスルはノエルの肩を叩き、自分の席に戻っていく。入れ替わるように手前側の席に座っていた男性が立ち上がって
「久しぶりですな、エリック殿!こちらの御仁は初めましてですな」
と嬉しそうに声を掛けたてきた。白髪の混じった灰色の髪、刻まれた皺から初老と言って差し支えない年齢のはずだがそれを全く感じさせないほど筋肉質な身体と豪快な笑い方だ。しかし名前が出てこない。エリックはなんとか名前を思い出そうと慌てて頭の中を引っ掻き回した。
うっすらと、顔に見覚えはある。しかし名前は出てこない。口の中の上顎の方がむず痒くなる、そんな感覚だ。
ひとまず話を合わせて、と考えていたところに救いの手が入る。
「初めまして、私はノエルと申します。どうぞよろしくお願いします」
「ご丁寧にどうも、ノエル殿。私はゼオルと申す魔術師の端くれです」
ゼオル、名前を聞いてそれから間があってやっとピンときた。
「ゼオル!貴殿はゼオル殿か!」
エリックは思わず声を荒らげた。
「おお、よかった。忘れられてしまったかと思いましたぞ」
「そんなことはないが、しかし…」
エリックが驚くのも無理はなかった。エリックの記憶の中のゼオルの姿は枯れ枝のような細い腕の腰が曲がった、杖をついて歩く老人だった。筋肉質な体どころか自身の足のみでスタスタ歩く姿すら想像がつかないほどだったのだ。
「実は孫娘にお祖父様と遊びに行きたいと言われましてな、可愛い孫娘に言われてはと思ってせめて自分の足で歩けるようにと身体を鍛え始めたのですがこれが面白くて気づけば孫娘を抱え上げられるほどになりました」
ガハハ!と豪快に笑うゼオル。
「本当に驚いたよ。別人かと思った」
それからも少しゼオルと話をした。また昼食の時にでもと言われて話を終えてコンスルの方へ向かう。
コンスルは封筒を一つ準備していた。
「エリック、ノエル、これが件の3つの短編の写しだ」
そう言ってコンスルは封筒をエリックに渡した。
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